植田総裁、ECBフォーラムで「日銀は (デジタルマネーよりも)まじめに新紙幣を発行する」とする

 日銀の植田総裁が6月末のシントラ(ポルトガル)でのECBフォーラムで放ったジョークを振り返ってみたい。以下、順序は少々違っているようだ。

 

 ECB Forum on Central Banking – Policy Panel - YouTube

 

 植田総裁は私にとって筑駒(当時・教駒)・東大の先輩で年もまあ近い。当時の教駒的な人間観では、植田総裁は同級生の中で明らかに一目置かれるタイプだったと思う。

 男子校であったために女性を知性の面でどこか、軽く見がちな気風もまた「教駒的」であり、その後は植田総裁はキャバクラで話術を磨いたとも聞く。これと共立女子大での教鞭の関係は分からない。

 

  ECBフォーラムでの植田総裁の発言で笑ってしまったのは次の点だった。

 

 最初にかましたのは「このフォーラムがこんなにトラブルとプレス・コンフェレンス(記者会見・質疑応答)が多いとは思わなかった」という前置きだ。たぶん事務局の「手違い(トラブル)」が多かったのだろう。

 プレス・コンフェレンスも数が多すぎて、植田総裁としては個人的に意見交換なり人間関係を深めるチャンスが少なく残念で、また聞いているプレスの方々もきっとプレス・コンフェランスの多さに「もう勘弁してくれ」という状態だったのだろう、植田総裁のこの前置きは笑いを取った。

 

 日銀の政策と円レートの水準について聞かれた時に、「円レートに影響を与える要素は日銀以外に多数あり、その中にはここにいる3つの銀行(FRB、ECB、BOE)も含まれる」と言って、「ヘッヘ」とした。

 この「ヘッヘ」が実に1970年前後の「教駒的」なのだ。

 実際、直近の円安は日銀のせいではなくFRBの利上げのせいだ。

 

  BOJ’s Ueda Keeps Central Bankers Laughing in Sintra - YouTube

 

 女性のモデレーターが政策金利とインフレの質問をした時には、植田総裁はほとんど共立女子大の学生さんたちに説明をしている風で、実に分かりやすくて手馴れていた。

 

 そのうちFRB、ECB、BOEの3総裁とモデレーターの4人の討論会状態になり、植田総裁は何の発言もしなくなった。これも実に1970年前後の「教駒的」で、議論をしたい人間には勝手に議論をしたいだけさせておくというスタンスだ。

  

 植田総裁の沈黙は約30分強、続き、この間で特にヒートアップしたのが主要な中央銀行間で「協調」をするかどうかだった。モデレーターの女性がモデレーター役の分を越えていろいろ言い出し、BOE総裁がこの物言いに違和感を呈した事で客席から失笑がもれ、次いでFRBパウエル総裁がこれに割って入った。

 

 以上のどこかで「金融政策の実施が実体経済への影響として出てくるまでのタイムラグはどれくらいと考えているか」というモデレーターの幼稚な質問に、植田総裁以外の3総裁はみな考慮すべきいろいろな条件の説明ばかりが長かった。

 

 ここで植田総裁が端的に「日銀は30年間、金融を引き締めて来なかったがいまだに(金融緩和の)効果は表れていない。だからタイムラグは少なくとも25年だ」と言い放った。

 

 BOJ’s Ueda Keeps Central Bankers Laughing in Sintra - YouTube

 

 植田総裁の発言の中ではこれが、一番受けていた。ECBラガルド総裁(女性)に至っては口を大きく開けて笑って、この冗談を喜んでいた。それくらい4人の総裁たちはモデレーターの女性の質問にフラストレーションがたまっていたのだろう。

 ちなみに植田総裁のこの発言は、私たち・不動産業界の人間が銀座や西麻布のクラブで女性相手に用いていた話法と酷似している。

 

 話がECBやFRBが検討している「デジタルマネー」に移ると、特にECBラガルド総裁がその意義を一生懸命に力説し始め、FRBパウエル総裁も軽く同調した。

 

 ここで植田総裁が発言、「デジタルマネーに熱心な中央銀行もあるが、日銀は公共からの信頼を深める為に(注)、もっとまじめな方法として来年、新しい(紙の)紙幣を発行する」とした。

 これは来年、日本で日銀が一万円札他の紙幣を新紙幣に切り替える事を言っている訳だが、こんな些末な事を知っている人間はこの会場にはおらず、笑いが全く取れなかった。

 

 ジョークがディープすぎて通じなかった事を瞬時に悟った植田総裁はただちに何か補足していたが、私は「来年、まじめに新しい紙幣を発行する」のくだりで大笑いしてしまい、その後、植田総裁が何を言ったのか確認していない。

 

(注)「日銀は公共からの信頼を深める為に」という部分は非常に深遠な議論が背景にある。

 円もドルもポンドもどんな通貨でも、そのグループ内で「通貨としての信認」を得ていないと「通貨」として機能しない。岩井克人先生の「貨幣論」の世界だ。植田先生はこの分野もご専門のはずで、FRBパウエル議長もECBラガルデ総裁他も「貨幣論」では植田総裁に敵うはずがない。

 植田総裁はFRBやECBが検討している「デジタルマネー」が本当に通貨としての信認を得られるか、100%の確信は持てないという意識があるのだろう。

 だから日銀は「まじめに新しい紙幣を発行する」方を選ぶとしたわけだ。

 

 なお2日くらい前の英字メディアに「植田総裁からの電報は届いていた」というような見出しの記事をみかけた。これはたぶん「植田総裁はメッセージを発信済みで、その意味を分かる人達はもう意味を分かっている」という意味ではないかと思った。

 日本では「電報」の内容は国内市場でもう反映されているのでしょうか?

 

(2023.8.15追記)

 経済学者といえども「キャバクラでは自分がお金を払って女性に話し相手をしてもらう」訳だが、経済学者なら「女子大では自分は給料をもらいながら女子学生が話し相手をしてくれる」ので、経済学者はキャバクラで客となるよりも女子大の教授となる方が「経済学的には合理的」だ。さらに日銀総裁の給与は3500万円くらいなので女子大教授よりも日銀総裁となる事の方がここでも「経済学的に合理的」だ。

 しかし英語でしゃべると植田総裁は日本のテレビの印象から激変する。

 たぶん、先生はご自分は「経済学的に非合理的な人間である」ことを強く自覚されている。

 先生や私がいた1970年前後の教駒(筑駒)ではエンドレスなイデオロギー論争が毎日続いていた。

 議論は議論として大切だが、理屈があっていさえすれば何でも正しいんだというようなものではないことを私と同様、先生も教駒で10代の多感な時代にこの感覚を知ったはずなのです。。

 だから女性は素晴らしかった。

 しかし先生はもう満腹となり、日銀総裁の「3500万円」に乗った部分もあるのでしょう。

 

(2023.8.18追記)

 授業で女子大生ばかりが10人とか100人とかという状況で90分、講義をしろと言われたら、私は(1回だけならやってみたいという気もするが)いやですね。セミナー講師は随分とやりましたが、男性10人に女性2人くらいの割合が私にはちょうどいい感じでした。

 1回だけセミナー会社の事情で「聴講者が若い女性1人」という時があった。2時間半も世界の不動産の話を1対1で話したわけだが、彼女はあくびも出来ずよそ見も出来ず、私もセミナー会社からの監視が入っているのでバカ話もほとんどできず、終わった時に疲労感と爽快感が入り混じりました。こういうのは「人間を経済的に合理的」と仮定しては説明できないのです(冗談)。・