就活する女子大生には「紺のリクルートスーツ」を着てもらいたかった理由

 あくまで私的な意見だし、表題のように考えたのはもう15年以上も前だ。

 今は事情は違うかも知れない。

 

 就職活動の季節に会社訪問に来る男子学生、これは不思議なことにスーツを着ていても一発で学生だとわかる。

 しかし女子大生はリクルートスーツを着ていてもらわないと「就活生なのか若手の女子社員なのか」、見分けがつかないのだ。

 もちろん、エレベータの中では聞かれてまずいような話をするわけはないのだが、それはそれで落ち着かなかった。

 

 彼女たちのなかには「冒険気分」でビル内の探訪を試みるのもいた。

 私が勤めていた会社では当時、5階が「役員室フロア」で廊下の入り口に小さな「役員用受付け」があり、秘書部の女性が座っていた。そこを曲がれば、赤いじゅうたんが分厚く、扉の数がありえないくらい多く、普通のビジネスパースンならばこれはまずったと即座に悟って引き返す。

 でも彼女たちは関所をやすやすと突破し、堂々と会長室、社長室の前を通り過ぎ、天然大理石の腰壁にアンモナイトの化石がないかを探しながら反対側のはしっこまで行くわけだ。

 

 この時、紺のリクルートスーツを着ていてくれるとこちらも安心して見ていられる。そうではないとどんな御用で役員室にいらした女性なのか、注意していなければいけない。

 

 なにせ歴史的建造物指定を受けていたビルだから変なつくりになっている所があるのも仕方がない。

 例えば地下階にある日本最大の「金庫」を見た後に隣の地下階に下りると、行き止まりのつくりが変なのだ。ここには大昔から監視カメラが設置してあり、管理事務所がモニターしていた。

 この行き止まりで行き場を失う人が出ると、管理事務所から「道案内」が出動した。というのも行き止まりの扉の一つをあけると、薄暗くて得体の知れない空間が広がっている。ここは「つう」だけが通勤路として使い「けもの道」と呼ばれていた。

 

 リクルートスーツを着ていようがいまいが、部外者がここへ入り込んだら救援隊はスタンバイだ。

 

 そのほかにもいろいろある。

 私は約40年間の勤務の間で2回、閉じ込められた。その他、先輩から深夜残業を終えて帰ろうとしたが一帯のビルを囲むセキュリティを内側から突破して外に出れるまでに約1時間かかったと聞かされ、これはその時に出方を教わったので難を逃れた。

 

 まあ男子学生ならばどうにでもなるわけで、就活する女子大生には紺のリクルートスーツを着てもらいたかったのだ。