WeWorkに関するフィナンシャル・タイムズの長文記事で意外な点と分かった点

 当社は「グローバル不動産経済」を標榜しているため、WeWorkについてはソフトバンクが同社に初めて出資した2017年の時点から注目、主要英米6紙に載った同社関連の記事はすべて(と言って過言ではないくらい)目を通してきた。

 だからフィナンシャル・タイムズ(アジア版)2020年2月22日号に載ったWeWorkの長文の記事の内容も7割がたは知っている話だったが、残りの3割で面白い話がいくつかあった。

 

 その前にこの長文記事だが、フィナンシャル・タイムズではこの手の内容の記事は通常は長くて1ページなのにこれは2ページ弱もあり、週末の暇つぶしとして読む長さだ。

 

 2018年暮れにWeWorkのニューマン元CEOがソフトバンクの孫CEOから獲得しようとしていた資金は200億$(2.2兆円)だったという話、これ、額がこうだったのか少々記憶に薄い。

 当時の新聞の報道では孫CEOはこれをビジョンファンドから出そうとしたのだが、サウジとアブダビの「拒否権行使」により話が潰れたとされていた。今回のフィナンシャル・タイムズではこの両国の話が出てこない。

 これはかなり重要なポイントで、サウジとアブダビのブレーキがなければ、ソフトバンクはもっと大変な事態に陥りかねなかったはずなのだ。

 

 さらに意外だったのは、WeWorkは2019年8月14日にIPO申請をした訳だが、ニューマン元CEO自身は同社の上場には気乗りがしていなかったのだという。というのも同社は従前、公募で社債を発行しており上場株ほどではないが一定のディスクロージャーが求められ、この公開情報に基づきさんざんな事を書かれてきたからだ。

 

 この説明で謎が一つ解けた。まず第一に、申請して公開された上場目論見書に記載された事項について、いろいろな点があまりにもひどくただちにバッシングの嵐となり、1ヵ月後に上場申請を撤回した。ニューマン元CEOの申請は真摯なものではなかったのだ。

 人間性批判まで出てしまったこの事態に対するニューマン元CEOの行動、真摯なものではなかったとは言っても申請した以上、この局面ではまともなCEOだったら必死になって「何とか上場したい」とあがくはずと思う。批判に対するニューマン元CEOの態度は必死さのかけらもなく人間として不誠実で、当事者としての責任感に欠いていたように見えた。 

 ニューマン元CEOは上場目論見書を提出した後も、心の底からは上場を希望をしていなかったようだ。

 

 またニューマン元CEOの資金繰りに関する鈍感さ、無頓着にも驚かされた。もっともこれは孫CEOが金はいくらでも出すという姿勢だったからなのだろう。JPモルガンはリアルタイムの報道ではもっとWeWorkに近しいように書かれていたのだが、フィナンシャル・タイムズでは同行は出遅れ気味で後から乗ったとされている。

 

 それにしても、WeWorkを急成長・急拡大してオフィス市場(コワーキング市場?)での圧倒的なシェア獲得をするという話、ニューマン元CEOにしても、ソフトバンクの孫CEOにしても、本気で信じていたと言うから恐ろしい。日本の不動産業界にはこんなバカ丸出しで誇大妄想な話に付きあうヒマなやつはいないだろう。

 ソフトバンク関連で似たような話として出てくるのは、アメリカのピザ市場で圧倒的なシェアを獲得するというものがある。ピザを焼くような(オーブンがあれば誰でもできるような)話でも寡占できると考えたらしい。

 犬の散歩のアプリも有名だ。犬の所有者とヒマな人間をマッチングするアプリからスタートした。アメリカに犬が3000万匹?いるとして、シェア1%を取れば30万匹というすごい事業規模になる。

 中南米ではソフトバンクは主要な料理宅配会社3社すべてに大型出資している。シェア拡大を最優先にしろとの要求が出されていた為、3社ともソフトバンクからの資金を原資に採算度外視のディスカウント合戦をしていて、どこも大赤字だ。これは「一つの市場を2,3社で寡占することがありうる」という孫CEOの主張を笑い話にする絶好のネタになっている。

 インドのオヨは日本で伸びるのは変だと思っていたら、ソフトバンクと孫CEOの係わり合いをちらつかせてホテルの「売上げ保証」をしていた。「保証」というのは興味深い商売で、「保証人」の欄にハンコを押すだけで「保証料」がいただける。とてもおいしいけれど恐ろしいビジネスでもある。

 とうとう大手の新聞までソフトバンクを正面切って批判し始めている。同社はどう見ても反省心の薄い会社だ。新聞で悪くかかれるのは新聞広告を減らしてWeb広告やポイント還元にシフトしているからだと考えているのかも知れない。

 どのように考えても自由だが、コワーキングもピザも犬の散歩も外れ、オヨではWeWorkの時と同工異曲な惨事が待っている可能性がある。ソフトバンクの外人トップやスタッフは読んでいるだろうが、英字メディアでのソフトバンクの書かれ方は日本の新聞ほど、やわではない。