海外買収を派手にしすぎた事で監視対象に・・

 海外買収を派手にしすぎた事で監視対象になっている主要4社のうちの1社、安邦保険が中国の「政府管理」となった。期間は1乃至2年である。今回の処置は同社がこのままでは破たんする状態であった事を意味している。現在、同社の国際的な問題の方が大きく取り上げられているが、実際は破たんに伴う国内の問題の方が大きかったのであろう。

 安邦保険が世界に保有するオフィスビルやラグジュアリーなホテルを中心とした不動産群は、すべて潜在的な売り候補だ。但し最も著名なウォルドルフ・アストリアは現在、超豪華マンションへのコンバージョン工事中で、売りの優先順位としては一歩、劣る。

 安邦保険に対する物件売却の打診は、去年からすでに世界のかなりの数の会社が行っていたようだ。しかし同社は今回の政府の動きと、CEOが昨年夏に当局により拘束されてしまった事から、身動きが取れなかったのであろう。

 

 HNA(海航集団)は依然として苦境が続く一方で、中国の準大手行である中信銀行から融資を獲得、また一帯一路構想向けの(政権迎合的な)ファンドも設立した。これらから判断すると同社は救済される方向で動いているようだ。

 大連万達も資産売却を継続、他人資本も多額を受け入れ、同社は往年のイメージを失った。デベロップメントや大胆な投資からは手を引き、今後はSCの管理業務を主業とする地味な会社になる。同社が欧米で巨額買収した映画ビジネスは、処分の行方が見えていない。

 

 昨年はアメリカの実店舗会社全般がひどい状態だった中、ニューヨークの小売り用商業不動産賃貸は比較的堅調だった。しかし小売り不振の波はとうとうマンハッタンも襲い始め、テナントからの「店を閉じられたくなかったら、家賃を下げろ」という交渉が多くなっている。店を閉じても家賃は払われるのだろうが、空き店舗が発生すると周囲のテナントや施設全体への客足に影響するためであろう、家主は妥協に応じざるを得ない。

 

 WeWorkにケチを付けていたのは主にフィナンシャル・タイムズだったが、今度はニューヨーク・タイムズがケチをつけた。同社は「コリビング」をうたい文句に賃貸住宅の「WeLive」、スポーツジムの「ライズ」、趣味のサークルの世話会社の「ミートアップ」、起業家精神を育む事を売り物に授業料がべらぼうに高い幼稚園、「WeGrow」へと手を広げた。

 しかし「WeLive」は普通の「寮」との、「ライズ」は普通のスポーツジムとあまり変わらない。「WeGrow」は「教育」という規制が多い異分野への進出であり、うまく行くわけがない。ちなみに同社の野放図な拡大を支えている最大の資金提供者は、日本のソフトバンクである。

 

 不動産保有会社としては世界最大であるブラックストーンのトップが交代する。次期トップのグレイ氏(48才)は同社の不動産投資ビジネスをここまで引き上げて来た最大の立役者だ。従業員が100人という時代のブラックストーンに新卒で入社した生え抜き中の生え抜きと言う点でも異色だ。会えるなら手土産を持って会いに行く価値は十分にある。

 

 H&Mの株価はここ3年くらい、不調が著しいわけだが、直近でザラの株価も3年ぶりの安値となっている。両社の「ファストファッション」や「チープシック」といったコンセプトなりビジネスモデルが流行遅れ、時代遅れになったのかもしれない。

 一方、アメリカではメイシーズを始めとする実店舗会社群の業績が予想外に良い。昨年のクリスマスシーズンの売上げが好調だった上、一月の寒波で冬物が良く売れた。実店舗群の悪さは大げさに言われすぎていた可能性がある。

 

グローバル不動産経済研究会:レジメ (2018.3.3)

 

          (ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清 f-ree@88.netyou.jp)