「サブプライム・ショック」を振り返る/「サブプライム証券」とは

「サブプライム・ショック」を振り返る

 

 いわゆる「サブプライム・ショック」が起きたのは2007年の夏であるから、来年で10年が経つことになる。ショックの震源地はアメリカ、道具立ては「サブプライム証券」だ。ことは「不動産金融」と呼ばれる不動産と金融が融合する、日本では未発達な分野でおきた。この分野は今後、例えば「TTP発効」を契機に日本で大きく広がる可能性があるので、以下、少し丁寧に「サブプライム・ショック」を振り返りたい。

 

 「サブプライム証券」とは、サブプライム・ローンから組成された証券であるが、どのように作り出すのかは後述する。サブプライム証券にはプロの間でなら適宜、自由に売買できる流動性がある時代があった(リーマンショック後には全く売買されなくなった)。従って、「サブプライム証券で運用するファンド」も多数あった。

 

 それらのファンドの中で最初に問題を起こしたのは、アメリカの準大手の証券会社で後に破綻したベア・スターンズだ。市場に過熱感が漂う2007年6月、ベア・スターンズは「サブプライム証券」により運用する同社の傘下のファンドについて、解約請求に応じられなくなったと発表した。これがサブプライム・ショックの端緒である。(今年7月、ブレグジットの余波によりイギリスで多発した「商業不動産ファンドの凍結」も似た構造だ。)

 

 市場はベア・スターンズの発表をショッキングなニュースと感じながらも、一瞬の躊躇の後、ただちにもとの過熱気味の活気を取り戻した。それはあたかもシティグループのCEOの名言、「音楽がなっている限り、ダンスは続けなくてはいけない」かのようだった。

 

 2007年8月、フランス最大手の銀行、BNPパリバがベア・スターンズの一件とほぼ同趣旨の発表をしたのと同時に、ヨーロッパ中央銀行は市場に大量の流動性を注入すると発表した。これは極めて異例の事態である。「流動性」とは、次のような話だ。経済は銀行(金融機関)を通じてAからBへ、BからCへとお金が円滑に流れることが大前提で、この資金ネットワークは蜘蛛の巣のように全世界を覆っている。BNP傘下のファンドが「めづまり」を起こせば蜘蛛の巣の結節点の一つが突然消えることになるが、下手をするとこの「めづまり」がほかの結節点にも連鎖的に広がったり飛び火したりして、とても大きな穴に拡大、経済に支障が起きる可能性がある。そうならないように「お金」を予防的に余分に市中に注入しておく、それがヨーロッパ中央銀行の取った措置である。

 

 ベア・スターンズとBNPパリバの件をあわせて「サブプライム・ショック」と言う。

 

 このヨーロッパ中央銀行の措置で、大西洋をまたいで市場は一挙に縮み上がった。パーティに終わりが告げられたのだ。以降、アメリカの住宅価格はみるみるうちに値下がりし、「モーゲージ証券」の価格も急落、翌年のリーマンショックへつながることになる。

 

                                                               ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

三井不動産リアルティ Realty Press Sep 2016 Vol.37

 

 

「サブプライム証券」とは

 

 それでは肝心の「サブプライム証券」とはどのようなものだったのだろうか。

 

 「サブプライ証券」のタネとなるのは住宅ローンの一種である「サブプライム・ローン」、すなわち低い信用の債務者に対して高い金利で貸すローンだ。実際の貸し倒れ発生件数が多くても、平均して高い金利で貸し付けておけば、銀行としては全体として見てペイするはずだという理屈のローンである。

 

 「サブプライム証券」では、まず1000本のサブプライム・ローンを集める。この「集める」ことを「束にする」とも「プールを作る」とも表現する。会計的には貸借対照表の資産の部にまとめて乗せることを言う。

 

 次に5つの「箱」を用意する。1000本のローンから回収した元利金は最初にすべてを1番目の箱に入れ、これが満タンになったら次にすべてを2番目の箱に入れ、それが満タンになったら3番目、次に4番目と入れ、まだ残っているようなら5番目の箱に入れる。このように順序付けすることを「トランシェ(トランチ)を切る」、とか「優先劣後構造を付ける」と言う。これら5種類の箱=「証券」は負債の部に乗せる。

 

 トランシェを切ることにより誕生する「証券」は、素晴らしい金融商品だ。このような手順なら、1番最初の箱の「貸し倒れ確率」は非常に低い。すなわち「AAA」だ。さすがに5番目の箱は「BB(投資不適格)」かもしれないが、間の3つは程度に応じて「AA」「A」「BBB」(以上、投資適格)だ。一本一本は投資には向かないサブプライム・ローンだが、「束」にされた上でこのように加工されれば、投資家は好みに応じてリスクとリターンの程度が異なる5種類の「サブプライム証券」を選べることになる。

 

 さてこの話のどこが間違っていて、サブプライム・ショックが起きたのだろうか。最大の誤算は元となるサブプライム・ローンで想定以上のデフォルトが起きたことだった。なぜそうなったのか、責任の所在はどこなのか、議論は最近まで続いていた。

 

 ベア・スターンズやBNPパリバの一件では、サブプライム・ローンのデフォルトの増加を知った投資家がサブプライム証券の価値が下落すると気付き、両社にファンドの解約請求をするようになった。両社はファンドの現金部分でこれに応じる一方、同時に見合いの額のサブプライム証券を市場で売り現金を得ようとしたがもう買い手がつかず、手持ちの現金が尽き、解約請求に応じられなくなった。これが「サブプライム・ショック」だ。

 

 両社だけが特に運用が下手だったわけではなかったことは、秋以降、明らかになる。欧米の多数の銀行が混乱に巻き込まれていった。幸いなことに邦銀はこのようなビジネスに手を出しておらず、ほぼ無傷で済んだのだった。

 

              ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

三井不動産リアルティ Realty Press Sep 2016 Vol.37