東大生活の最初の難関は「うでたてふせ」だった

 1972年のことだから、これも古い話だ。


 東大にはいったら1、2年生は「体育」が必修。半期ごとに種目を変えられる。


 選べた種目は「テニス」「バレーボール」「バスケ」「基礎体力トレーニング」の4つ。


 当時、一番人気がない(だれも希望しない)のが「基礎体力トレーニング」だった。


 まず「体力テスト」が行われ、基礎体力がないと判定されたヤツが、まわされる。

「テニス」「バレー」「バスケ」のちゅうせんで外れたヤツも、まわされる。


 (当ジャパン・トランスナショナルは「テニス」を希望し、外れた)


 体力テストは「反復はばとび」「うでたてふせ」ほか全部で4種目あった。


 「うでたてふせ」だけ、異様に要求水準がたかく、合格点は、なんと「24回」だった。


 まじめにやって「24回」なんてできるはずがない。4、5回できればいい方だ。


 号令に合わせて一斉にみんなで始めるわけだが、だれも腕はほとんど曲げない。

 おなかだけ、目いっぱい上下させている。


 みんなおんなじようにズルしているから、「24回」なんて無謀な基準ができるのだった。


 長じて世のなかに出て、「たてまえの重要さ」というのを思い知ったことがある。


 「たてまえ」には「たてまえ」としてのりくつがある。


 「たてまえ」の攻略にはあたまや知恵や我慢や策謀ほかを使わなくてはいけない。


 若さや正義感でむやみにたてつくことは、ある時は美談だが、ある時はドンキホーテだ。


 当ジャパン・トランスナショナルは、この24回のうでたてふせで、ばからしいくらい逆らえない「たてまえ」の存在を、身をもって学んだのだった。