アメリカにおける「リスティング」の過去と現在

 売却受託した物件を売り出す事を「リスティング」と呼びますが、この「リスト」はジロー(Zillow)やMLS(Multiple Listing Service)他のコンピュータの中にある「仮想的なリスト」です。今は物件を目立たせる為にティックトックやYouTube、インスタグラム等のSNSと連動させる例も増えています。

 

 アメリカの不動産仲介業の「あけぼのの時代」の話にリスティングの由来が見えます。昔、不動産仲介業者たちは定期的に集まり情報を交換、「自分が受託した物件の買い手を見つけてくれたら手数料を払う」としていました。これが現在の「仲介手数料は売主のみが負担し、買主側業者への手数料は売主側業者から払う」という慣行に定着したようです。

 

 会合の際には「新規の売り出し物件のリスト」も作られていて、これがそのまま今も「リスティング」という言葉として使われているのでしょう。

 

 現在、アメリカの不動産仲介業者への規制や監督を実質的に担っているのは「全米リアルター協会(NAR)」です。同協会が行政上の組織ではなく民間の業界団体だという点は特徴的です。民間の組織なのに絶大な権限を持つに至った出発点は、前述の情報交換会にありそうです。各業者はこの会に参加できなくてはビジネスになりません。問題を起こした業者に出席を許すかどうかは情報交換会自身=民間が決めていた、すなわち自主規制だったのです。

 

 なぜ現代でも全米リアルター協会の権威が大きいのか、その理由をヒアリングした事があります。仲介業者は売買の際の各所で、同協会の会員であると書き込む事が求められ、会員であるなら難なく進む手続きでも、会員でない場合は仕事にならないと聞きました。会員資格が取り消されると、仲介業者にとっては死活問題なのです。

 

 さて直近のリスティングの様子を見てみましょう。新型コロナの際に金利が極端に引き下げられ、新規の購入時だけではなく既存の住宅ローンの借り替えも盛んになりました。本来、もう売却に回るべき物件だとしても「3%の住宅ローン」を借りている人にとって、その家を売って新しい家を「7%弱の住宅ローン」で買う事はどうにも気が進みません。

 

 2023年4月の新規のリスティング数は前年比で21%減少、2019年比で31%減少です。供給が少ない為に購入者間では激しい競争が起きています。

 

 この競争に疲れた購入希望者は、郊外のビルダーの物件に向かっています。ビルダーの物件は希望すれば必ず買えますし、その後のいろいろな予定も立てやすいわけです。なおアメリカの「ビルダー」とは注文住宅の会社ではなく、日本での建売り業者に近い形態です。販売方法は着工前の図面売り、建築工事中物件の売り、竣工済み物件の売りが中心です。

 

                                                                            ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

三井不動産リアルティ㈱発行

REALTY-news Vol.98   6月 2023年 掲載