ビジネスを円滑に進める為には「信用」が必要で、「オーラ」を放っていると進む速度は格段に速くなります。ブラックストーンはオーラと共に破竹の勢いで拡大してきました。しかしこの数ヶ月、これに傷が付きかねない話が立て続けに起きています。
最も大きく「はてな?」と思わされたのはBREIT(ブラックストーン・リアルエステート・インカム・トラスト=ビーリート)という個人富裕層向けの不動産投資ファンドで、大型の賃貸マンションや物流倉庫に投資しています。「大型不動産への投資の妙味」は、従前は大口の機関投資家等だけが享受できたのですが、BREITではこの投資機会を個人にも提供するとして人気を得、今やブラックストーンの稼ぎ頭です。
BREITでは純資産等から計算した投資価格が設定され、一単位の額は大体数十万円と比較的高額です。上場リートと似た値動きを続け、これは両方とも同じような商業不動産へ投資しているのだから当然だろうと思われていました。しかし2022年の春以降、上場リートの株価が大きく値下がりしたにも拘らず、BREITの価格はほぼ横ばいのままでした。
商業不動産価格の下落の反映がなぜか遅れていると考えた投資家は、換金の際の価格が高いうちに引き出そうとし、これが膨らみ2022年の暮れに償還が一部制限されてしまいました。
「投資家が望んだタイミング通りでは資金化できない」という事態になったわけで、大変な騒ぎとなりました。これについてブラックストーンは「流動性が低い大型物件へ小口の個人投資家が投資するという商品の性格上、流動性はある程度は低くなる」としました。
またBREITの価格が値下がりしていない事について、ブラックストーンは「上場リートは市場の需給で価格が決まるのに対して、BREITでは保有不動産のキャッシュフローによる評価をしておりそれに応じたものだ」としています。しかし両方の議論とも、ロジックはともかくどうも釈然としません。
「個人向け」のはずのBREITにカリフォルニア大学基金が2023年1月に巨額の出資をしたのですが、出資条件が一般の個人の場合より大きく優遇されていました。ブラックストーンの説明では「この優遇で個人投資家がワリを食う事はない」ですし、投資スキームを見ると確かにそう見えます。しかし大口の投資家が条件的に「優遇された」事は明らかなのです。
BPP(ブラックストーン・プロパティ・パートナーズ)という機関投資家等向けの商業不動産ファンドでも投資家からの償還請求が巨額に溜まっています。これも商品設計通りだとの事ですが、やはり釈然としません。
2015年に巨額買収をした戸数11,200戸の賃貸住宅団地では、家賃の引き上げの可否を巡る裁判で敗訴となりました。投資としては致命的な話です。敗訴の原因を一点だけに絞れば「政治リスク」です。ブラックストーンの「政治力」は期待されていたほどではなかったのです。
フィンランドで2016年に買収した際の一部の物件のCMBS・残債数百億円をデフォルトとしたことも直近で明らかになりました。フィンランドはロシアとの国境線が長く、不動産市場の悪化にはウクライナ問題の影響があったとされます。しかしデフォルトはデフォルトです。
同社が現在募集中の企業買収向け超大型ファンドでは、資金の集まり方が以前ほど良くありません。「オーラが薄れたので出資は取りやめる」とする所が出る事も危惧されます。
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清
三井不動産リアルティ㈱発行
REALTY-news Vol.95 3月 2023年 掲載