新型コロナ明けの経済統計を読む難しさとアメリカの金利

 2月1日に米FRBが金利の引き上げ幅を0.25%に縮小しました。12月は0.5%の引き上げ、その前は4回連続で0.75%の引き上げでしたので、インフレ抑え込み最優先というブレーキを少し緩めた形です。

 

 米FRBは金利を決定する際に経済統計を重視しますが、新型コロナ以降、経済統計の読み解き方が非常に難しくなっています。話の切り口として「季節調整」・「季節調整済み年換算」という言葉を先に説明したいと思います。

 

 たとえば「住宅販売件数」は毎年3月から6月に増加します。9月の新学期から逆算して家を買うニーズがこの頃に顕在化するためです。3月は2月に比べて販売件数が増える傾向が毎年あるなら、これを調整しないと景気や市場が良くなったのかどうかがわかりません。

 

 この「季節調整」の方法ですが、毎月の販売件数5-7年分を一覧表にし、各月が前の月から何パーセント変化したかを出し、その平均値を1月から12月の月ごとに出します。これは各月ごとの変化率の「クセ」で、当月のデータとこのクセとをあわせて12か月分を計算したものが「季節調整済み年換算」です。当月の「季節調整済み年換算」から前月のそれを引いて「前月比」を出します。単に「前月比」としてあっても「季節調整」をしたものがほとんどです。またその他のデータを季節調整の際に加える場合もあります。

 

 2022年12月の既存住宅(中古住宅)販売件数は前月比で1.5%減少、新築住宅着工件数は前月比1.4%減少です。2023年の1月分は2月中旬に発表されますが、ある大手の不動産仲介会社は社内の集計数字から判断して、1月分はそこそこ伸びるだろうとしています。

 

 小売売上は店舗家賃に直結します。しかし新型コロナ突入以降、小売売上の統計を読むのが極度に難しくなりました。2021年はサプライチェーンの混乱により売れすぎると品切れが起こりかねないため、ディスカウントは控えめでした。ところが2022年は仕入れの読みが大きく外れ、山となった在庫の処分のディスカウントに追われる状態でした。

 

 小売りの現場はてんてこ舞いで、統計などには構っていられません。1月中旬に発表されたクリスマス商戦の売上は結局、「微減」と事前予想よりも悪い数字でまとまりました。消費が弱含みであった事が冒頭の米FRBの利上げ幅縮小の根拠の一つになっているはずです。

 

 今、議論を呼んでいるのは「雇用統計」です。2月3日に発表された1月の雇用者数の増加は51.7万人で、予想されていた20万人前後の倍以上もあります。これなら景気は好調に向かっていて、さらなる利上げでインフレの押さえ込みむ事は可能だとなります。しかし「51.7万人」というのは、どうも実感にあいません。世の中はレイオフの話だらけなのです。

 

 米FRBのパウエル議長はまだ利上げをしたがっています。「年内に利上げはあと2回」と覚悟している人が増えています。

 

                                                                          ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

三井不動産リアルティ㈱発行

REALTY-news Vol.94   2月 2023年 掲載