コロナ対策で生じた低金利モーゲージの「コブ」

 日本の住宅ローンにあたる物をアメリカでは「モーゲージ・ローン」と言いますが、異なる点がいくつかあります。

 

 日本の住宅ローンでは家は担保ですが、モーゲージでは家は契約の対象物です。日本では担保を処分してもローン全額の返済に足りない場合、債務者に残りの支払いを要求できます。アメリカのモーゲージでは銀行に家を差し出すだけで帳消しになります。但しその場合、踏み倒した人は10年間、住宅で新たなモーゲージを貸してもらえません。帳消しになるのはビルやホテルなどへの商業モーゲージでも同じです。「キレ」が良いとも言えます。

 

 金利が下落するとリファイナンス(借り換え)が活発になります。条件にもよりますが、リファイナンスで返済が月7-8万円減少する事もよくあります。 残債より大きな額のローンへ乗り換えて差額を「キャッシュアウト」し、家の修繕費や新車の購入などにあてたりします。

 

 銀行は貸し出したモーゲージを他へ売却することもよくあります。だらだらと金利をもらい続けるのではなく、資金回収と同時に債権売却益を得ることを選ぶわけです。融資した金利より低い利回り(=高い値段)で売却するので、銀行には債権売却益が出ます。ローンを買う側は、買い集めた大量のローンを材料にして証券化ビジネスを行います。

 

 政府系の機関、ファニーメイがモーゲージ買い入れの代表格です。同社は買い取ったモーゲージをいったん「プール」に入れ、取り出した「束をスライス」して証券として売ります。この証券が「MBS」です。銀行はMBS市場から逆算して自行の融資金利を決めます。

 

 さて新型コロナ対策によりモーゲージの金利が3%まで下がったために大量のリファイナンスが発生、その後、インフレが発生したため金利は逆に猛烈に引き上げられました。

 

 現在、中古住宅の売買市場では取引件数が急落している一方で、価格はまださほど下がっていません。取引件数が減っているのは売り物件の数が少ないためです。低金利のローンへリファイナンスしたので売り手に売るモチベーションがなくなったと考えられています。

 

 自宅を売って「3%という低金利」を捨て、購入物件では「7%のローン」を借りることになるので買い替えをためらう人が増えていると見られるわけです。

 

 新型コロナ禍中にリファイナンスされた大量の低金利のローンは、一種の「コブ」を形作っています。このコブの存在により中古住宅の売買市場の不活発さが長期化する可能性があります。一方、直近では単純に「今が高値だ、値崩れは近い」とみて売る人も出始めています。

 

 リファイナンスにより大量発生した繰り上げ返済はMBSに紐づけられていますが、MBS市場では混乱はまだ起きていません。MBS市場での別種の問題としては、以前は量的緩和を実現するFRB(連邦準備制度理事会)が超大口の買い手だったのが、今後はFRBが大口の売り圧力となることです。

      

                                                                           ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

三井不動産リアルティ㈱発行

REALTY-news Vol.91   11月 2022年 掲載