ウクライナ危機で、「グローバル化」の今後が注目されます。例えばアメリカやヨーロッパの大手ホテルチェーンがロシアから手を引こうとしています。進出規模で最大のフランスのアコーはロシア全体に50棟、うちモスクワで21棟を営業していますが、3月にロシアからの撤退を表明しました。
アメリカのマリオットやハイアットも撤退に着手しています。これらの動きは不動産ビジネスで起きた「世界の分断化」です。今までのグローバル化の流れが反転し始めました。
ロンドンのラグジュアリーな不動産市場も問題含みです。ここでは「オリガルヒ」がキーとなっています。
オリガルヒというのはロシア人の大富豪達の事で、ソ連崩壊時に国有企業の民営化が進められ、そのどさくさに大変安い価格で国有企業を手に入れ、後のエリツィン時代に非常に大きく成長し、政治にも強い影響力を持ちました。一部は「政商」でもあります。
このオリガルヒ達が好んで買ったのがロンドンのラグジュアリーな住宅です。買う際には海外法人名義で買って正体を隠しています。彼らに最も好まれる地区は市内の超高級住宅街であるベルグレイビアや近郊のサリーですが、ほかでも高級住宅地を広く買っています。ロシア語で都市の事をグラードと呼ぶので、ロシア人が多く買う高級地区には「ロンドングラード」というニックネームがついているくらいです。
ロンドンの住宅が彼らに好まれた最大の理由は、資産を置くのに簡便かつ安全だからです。総額でいったいいくらくらい買われたのかは、調べてもよく分かりません。「オリガルヒが所有する住宅が一斉に売られて市場が崩壊する」というのが悪夢のシナリオです。
不動産とは別種の蓄財を兼ねた資産が「スーパーヨット」です。ギガヨットというと全長90m以上になります。これらの魅力は「売る時はドル建てで売れる」という点です。ただヨットというのはあまりにも維持費がかかるので、蓄財用の資産には向いていません。運用する方法が他にはもう無いというオリガルヒが買っているという面があります。
アブラモビッチ氏は最近では最も有名な超大物のオリガルヒです。以前からスーパーヨット2隻、4.74億$(593億円)、4.37億$(546億円)を持っている事で知られていましたが、他にも3隻のスーパーヨットを保有している事が分かりました。以前の離婚の際の慰謝料はギガヨット付きで払っています。海が好きでヨットを持っている人だとは思えません。
ロンドンのラグジュアリー住宅を保有するオリガルヒ達の感覚は、アブラモビッチ氏のスーパーヨットに似ているのかも知れません。
(ドル=125円 4月11日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清
三井不動産リアルティ㈱発行
REALTY-news Vol.84 4月 2022年 掲載