Zillow、フリッピングでの巨額損失はアルゴリズムへの自信過剰から

 アメリカでは、住宅をいったん買い取り、小修繕をした上で売却して利益を取るビジネスを「フリッピング」と言います。Zillowがフリッピングで巨額損失を出し、2021年11月、撤退を発表しました。ここではコンピュータに依存しすぎたZillowの失敗の経緯をご報告します。

 

 前回、フリッピングが盛んだったのは2000年代前半で、主役は「サブプライムローン」を利用した個人投資家でした。今回は事業として大規模に行っている会社が目立ちます。コンピュータをフルに活用しているので「アイ・バイイング」とも呼ばれています。

 

 フリッピングで大赤字を出したZillowはオンライン不動産検索サイトで有名なアメリカの企業です。また「ゼスティメイト」という非常に高い精度の価格査定プログラムを開発していました。

 

 2018年に「Zillow・オファー」と銘打ってフリッピングに参入します。ゼスティメイトによる査定価格よりも安く出た物件を買い、小修繕をしてから売却、利益を抜くわけです。売る時は売り主直売となるので、中古住宅売買に関わる面倒な手続きが大幅に簡素化できます。進出当時、Zillowは「自分たちほど住宅市場を理解している会社はない」と自信満々でした。

 

 ところが2020年後半から住宅価格が上昇し始めると思わぬことが起こりました。売り主への「Zillow・オファー」の提示価格が低くて競り負けし、買えなくなってしまったのです。

 

 競り負けの原因は、住宅価格の上昇速度があまりに速くて、ゼスティメイトが追い付けていないことでした。数か月前に決まった価格からの計算ではもう低すぎたわけです。

 

 Zillowはゼスティメイトの「係数」を修正し、高めの値段でのオファーが可能なようにし、同時に買い入れ戸数を大幅に増加しました。ところがこれが一種の暴走と似た状況を呼び、仕入れ戸数は2021年4-6月期は3,800戸、7-9月期は9,680戸にも上りました。その上、運が悪いことにこれが住宅価格上昇率のピーク時と重なっていました。統計では上昇率のピークは7月です。Zillowは全般的に「高買い」してしまっていて、従って同社の売り物件には取得価格割れの物件が多い状態になっていました。

 

 Zillowはどこかでこれに気づき、在庫を評価すると約5.6億$(644億円)もの巨額赤字に達することが分かり、2021年11月にフリッピングから撤退すると発表したわけです。

 

 全体として変な話です。最も奇妙に見えるのは「相場が上昇しているのに『フリッピングで損をした』」という点でしょう。同業他社はしっかりと利益を出しています。Zillowのゼスティメイトへの期待の仕方も変です。これは価格査定用のアルゴリズムであり、そもそも「買って売ることにベットする」ことに向いたものではないはずなのです。

 

 2021年度の決算発表時の補足的な説明に興味が持たれます。

 

(ドル=115円 2月4日近辺のレート)

                                                                            ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

 

(メルマガ発刊後の追記)2月10日のZillowの発表では、昨年度のフリッピング事業での赤字は1010億円だった。10-12月期の売却戸数は8350戸で一戸平均290万円の赤字だった。