ジロー、アルゴリズムへの自信過剰が主因で巨額の損失

 ジローが買取り転売事業で大失敗をした。同社は全米で圧倒的な不動産検索サイトだが、2018年に「自分達ほど住宅市場を理解している所はない」として買取り転売事業に進出していた。この手法はアルゴリズムを用いたiBuyingと呼ばれたが、自信過剰があだになった。

 

iBuyingの同業にはジローよりかなり規模が大きいオープンドアや、オファーパッドもあり、両社は問題を起こしていない。なぜジローだけが同じような事をしているのに大失敗となったかだが、住宅市場が急上昇する中で「強気の買い進み」を指示した為と言われる。

 

(ジローの大失敗の件は末尾参照)

 

 アメリカへの入国制限が大幅に緩和され、観光客・出張客への依存度が大きいニューヨークのホテルは大きな期待を抱いている。しかし国内からの旅行客は増えそうだが、海外からの客が増えるのは暖かくなる春以降となりそうだ。海外の客は落とすお金が大きい。

 

 マンハッタンではタイムズ・スクエア・エディションが競売へ、ブロードウェイ近傍のシビリアンは芸術の香りがあり、ノマド地区の評判を高めたザ・ノマドは英系ザ・ネッドとして復活する等だ。ディズニーのスターウォーズをテーマとしたホテルは人気化しそう。

 

 新型肺炎でブラック・フライデイ(11/26)が様変わりし、格安目玉商品は今年はなくなりそうだ。この10年、感謝祭から開店する店が増えていたが、今年は閉店する所も多い。

 

 ソフトバンク(ビジョンファンド)が以前に大赤字を蒙る事になったWeWorkSPAC上場し、同社から放逐された元CEOのアダム・ニューマン氏は10$(1150億円)の資産家になった。しかしWeWorkが依然として巨額赤字が続き、四半期で900億円弱の赤字だ。

 

 カナダのブルックフィールドはシカゴのオフィスビルをデフォルトさせる可能性がある。稼働率が62%と低い。以前、同じカナダの超巨大モール会社のトリプルファイブもニュージャージーの新モールでの資金の為に既存巨大モールに傷をつけている。

 

 中国のデベの債券や株式が底打ち反転した。中国人民銀行の発言やデベ向け融資規制の一部緩和等が好感されている。恒大集団CEO他、デベのトップ・創業者が個人資産を会社救済の為に投じるよう強制されている模様だが、これがどの程度の足しになるかは疑問だ。

 

 恒大集団の問題はまだ片付いていないが市場の注目は佳兆業に移っている。同社は中規模のデベだが、ドル建て債の額が恒大集団に次いで第2位だ。佳兆業は当局の債務制限3基準を満たしていたが、この基準を満たしていても健全とは限らない事がはっきりした。

 

 中国のジャンク債の下落はリスクが高く格付けが低い所から、大手デベや政府系デベの社債まで下落をしている。デベ首位の碧桂園の場合を見ると、同社の事業はエスクローで拘束される比率が40%と高い地方都市に多く、このため販売収入を運転資金に充てれない。

 

 中国で、地方政府の土地公売の落札者に国有デベや融資平台が増えた。国有デベは以前の45%から75%に、融資平台は10%から33%に増加した。直近では入札不調が増え、北京では公売43件のうち26件で不調となった。土地が売れないと地方政府の財政はもたない。

 

 香港で、マウント・ニコルソンの住戸が6.40HK$(94.7億円)、隣接する住戸が5.61HK$(83.0億円)で売れたが、同一人物の購入と見られている。二戸合計で12HK$(177.6億円)だ。香港は様々な問題を抱えているが、超高額物件の真の買主は中国人と見られる。

 

 ロンドンの住宅市場の説明は面倒だ。ブレグジットによる金融業務の衰退予測は外れて影響はさほどなかった。新型肺炎では郊外や遠隔地への移住が進み、これらの移住者は今は戻っているのだが、中心部だけが復活から取り残されている。外人買いが見られない。

 

 

***ジャパン・トランスナショナル 坪田 清***

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ジロー:時価総額がピーク時から305$(3.5兆円)も下落 

(ブルームバーグ 2021.11.3・水)

 買取り転売事業からの撤退を発表し、ジローの株価は19%下落、時価総額は2月の高値時から305$(3.5兆円)減少した。2月時点は20220年に比べて株価は3倍になっていた。

 

ジロー:大きくなりすぎた為にダウンサイズが必要 

(ウォールストリートジャーナル電子版 2021.11.3・水)

 ジローは昨日、「iBuying」はリスキーでボラタイル、利益が小さ過ぎるとした。第3四半期に3.04$(350億円)、第4四半期には2.4-2.65$(280-305億円)を引き当てる。第3四半期中に9680戸を購入し、これは第2四半期比で2.5倍だった。同社は住宅の価格評価には定評があるが、「売り買いする」のは別の話だったわけだ。

 

ジロー:アルゴリズムで住宅を仕入れる事業がなぜ失敗の運命にあったか 

(ブルームバーグ 2021.11.8・月)

 ジローの買取り転売の核となるのは価格評価システムのジェスティメイトだが、転機は今年春にきた。住宅価格の上昇が早くなりすぎアルゴリズムによる価格では競り負ける様になった。ジローは第2四半期に強気な価格を出すようにし、ライバルに競り勝った。ジローの在庫保有期間は50日だった物が84日に伸びてしまった。

 

ジロー:ITビジネスでの超高速での成長モデルは住宅には適用できない 

(ブルームバーグ 2021.11.4・木)

 ジローはアルゴリズムを失敗のせいとしているが、アルゴリズムが事業の成長に適合していなかったのだ。問題が発生したのは2021年第1四半期で、住宅価格の急速な上昇と市場在庫不足から「市場でいくらでも買う事が出来る」状態ではなくなった。この時、ジローはそれでも「買い続ける」としたのが運命の分かれ目だった。

 

ジロー:住宅市場の方がジローよりも頭が良かった 

(フィナンシャルタイムズ電子版 2021.11.3・水)

 2018年にジローは「自分達ほど住宅市場を理解している所はない。取得から100日で売るので下振れリスクも大丈夫」としていたが、これは間違っていた訳だ。さらにジローが仕入れに失敗をした8-9月の市場は悪くはなかった。データやアルゴリズムで優れていても疑われるべきだし、構造的に違うビジネスでは大失敗しかねない。

 

ジロー:同社がやっていたのは一生懸命、儲けを少なくする試みになっていた・・

(ブルームバーグ 2021.11.19・金)

 ジローが買取り転売で大失敗をした訳だが彼らが試みていた努力の筋道をたどると、結果として彼らは一生懸命に儲けの額を少なくするように努力をしていたように見える。ジローオファーを受け入れる売り手は10%で、ジローはマーケットシェアを高める為に買取りオファー価格を高くした。株の空売りで陥る問題と似ている。

 

ジロー:住宅の買取り転売で同社は「ベット」を望んでいたのではなかった

(ブルームバーグ 2021.11.3・水)

 買取り転売事業のジロー・オファーズではジローは「レバを掛けて住宅売買をする」形になっていた。iBuyingが恐ろしくリスキーなのかジローがやり方を失敗したのかなのだが、iBuying自体は売買手続きを簡素化する便利なサービスである事は確かだ。同業のオープンドア、オファーパッドはともに十分、儲かっている。

 

ジロー:戸建て住宅レンタル会社が狙うジローが保有する在庫の家 

(ウォールストリートジャーナル電子版 2021.11.5・金)

 ジローは住宅在庫の残を38$(4370億円)としているが、戸建て住宅レンタルのプレティアム、アメリカン・ホームズ・4・レント、インビテーション・ホームズがこれを狙っている。在庫はフロリダ、カリフォルニア、テキサスに多く、レンタル用に向いたエリアだ。ジローは現在保有中が9800戸、契約し掛り中が8200戸だ。

 

ジロー:iBuyingとその周辺にあるiLenderほか 

(ニューヨークタイムズ電子版 2021.11.19・金)

 iBuyingと比較されるのがアルゴリズムでモーゲージ申請を1時間で処理するiLenderだ。彼らは銀行等からモーゲージ融資の事前承認を受けた人間が「全額キャッシュの購入者」となる様に購入者へ融資する。購入完了後に銀行が購入者宛にモーゲージを融資、購入者はiLenderへ融資を返済する。買い替え客についても強みを出す。

 

ジロー:ライバルのオープンドアとオファーパッドの第3四半期は好調 

(ウォールストリートジャーナル電子版 2021.11.10・水)

 ジローのiBuyingでのライバル2社の第3四半期売上は過去最高だった。オープンドアは期中に1.5万戸を買取り6000戸を売却、オファーパッドは2750戸を買取り1700戸を売却した。しかし両社とも依然として赤字のままで、オープンドアは5680$(65億円)の赤字、オファーパッドは1530$(18億円)の赤字だった。

 

ジロー:ジローは失敗し、オープンドアはなぜ上手く行っているのか 

(フィナンシャルタイムズ電子版 2020.11.12・金)

 

 オープンドアは「誤差の余地」、即ちグロス・マージンをジローより大きめに設定していた。ジローはマージンの目標値を成長段階では-2~+2%、平準化した時には4-5%としていたが、オープンドアの現在の目標値は4-6%で販売戸数はジローの倍だ。しかしこれだけでは説明できず単に「ジローの買い方が下手」だった可能性もある。