住宅ローンと収益物件用のローンに見る日米の違い

 住宅ローンはアメリカでは「モーゲージ・ローン」と呼ばれる。日本と8割方は同じだが、いくつか重要な点で違う。

 最も違うのは「貸し手(レンダー)の多様さ」だろう。「銀行」以外に「住宅ローン融資会社」が多数あり、「モーゲージ・ブローカー」というレンダーと借り手をつなぐ会社も多数ある。昨年は低金利によりモーゲージ・ブームが起きたが、銀行よりも「住宅ローン融資会社」と「モーゲージ・ブローカー」が大きく拡大した。

 

 日本の住宅ローンでは住宅は「担保」だが、アメリカでは「モーゲージ」であり、この違いは大きい。日本ではデフォルト時のローン残債が4,000万円の時、担保処分で3,000万円しか回収できなければ残りの1,000万円について、他の資産を処分してでも弁済するように要求できる。ところがアメリカのモーゲージでは、デフォルト時にはモーゲージに入れた住宅を引き渡すだけで良い。これを「ノン・リコース」という。

 

 「ノン・リコース」であるため、デフォルト時には次のような事態が起きる。

  一つは「破壊パーティー」だ。銀行等に住宅を引き渡す前にみんなで集まって家の中を破壊しまくろうというパーティーである。仲間と一緒にうさ晴らしをするわけだ。

  「ジングル・メール」というのもある。「もうローンの返済はやめるので勝手に手続きをしてください」という手紙を鍵の束と送りつける。銀行としては移転登記等に手間がかかる。

 

 貸し出された住宅ローンがその後、どうなるのか見てみたい。これは金融業の世界だ。

 

 レンダーにはローン債権をそのまま保有して金利を得る道と、政府系金融機関のファニーメイ他にローン債権を売って融資元本を回収、債権売却益を得る道とがある。売却されたローン債権は束にしてスライスされ「MBS」と呼ばれる証券として、投資家が買う。

  金融業界は「MBS」をネタにして様々なビジネスができる。単なる保有、売買のほかにひとひねりしてオプション、スワップ、さらにその進化系だ。稀に不動産業界に跳ね返ってくることがある。サブプライム・ローンも束にされてデリバティブにより「極端に安全な部分」から「極端にリスクが高い部分」に切り分けられ、サブプライムショックではその「リスクが高い部分」から爆発、引き金となって住宅価格の全面的な下落を引き起こした。

 

 収益用不動産のためのローンは「商業不動産モーゲージ・ローン」と呼ばれ、やはり「ノン・リコース」である。すなわち返済ができなくなったら、銀行へその不動産を引き渡すだけでよい。夢のような話に聞こえるが、みながこの条件下で競争をしているので、これはこれで商売が楽というわけではない。

 

 収益物件は親会社ではなく、「特別目的会社(SPC)」と呼ばれるその物件専用のペーパー・カンパニーにより所有される形を取る。銀行からのモーゲージ・ローンもこのSPCが借り入れ、親会社はこれへの保証をしない。

 SPCは必ずこの銀行に口座を開き、テナントは家賃をこの口座に振り込み、銀行はそれを伝票一枚によりローンの返済金へと振り替える。こういう状況なので銀行としては、親会社よりもテナントの健全性の方が重要になる。

 

 物件をSPCに持たせる形にしておくと便利なことがある。物件売却時に「不動産として売るか」「不動産を保有する会社の株式を売るか」を選べる。また部分売却の際に、物件の7割分を売却して3割分は手元に残しておきたいという時は株式の7割分を売れば済む。

 

 最近、とみに重要度が増しているのが「CMBS」という「MBS」と似た仕組みだ。元々は紐づいている不動産が数百物件ある仕組みだったのだが、最近は大型物件一つだけに紐づいたCMBSが非常に増えている。「シングルアセット」と呼ばれている。

  もう一つは「CMBSローン」の拡大だ。CMBSは元々は融資済みのローンを投資銀行が集めて投資商品に仕立て、機関投資家に売っていた。CMBSローンでは機関投資家からの出資と債務者への融資がCMBSを通じて同時に行われる。

 

 新型コロナ下でモーゲージ・ローンもCMBSも各所で問題が起きている。モーゲージのままの場合は銀行が返済猶予等の条件見直しに応じる場合が多い。しかしローンがCMBSに組み入れてしまうと、返済条件の変更がほぼ不可能だ。CMBSでは契約が各所に入り組んでいるため、変更しようにも手が付けられない。これは今後の問題として残されている。

 

三井不動産リアルティ㈱発行 

REALTY PRESS Vol.- 2021年3月11日発行