イギリスの住宅市場の現況・・話が滅茶苦茶に複雑に

 もともと一筋縄の説明では済まなかったイギリスの住宅市場が、昨年の新型肺炎以降、説明が滅茶苦茶に複雑になっている。

 まず新型肺炎前の状況だが、概ね2010年から2014年頃まで、特にロンドンの住宅は好調だったのだが、2016年のブレグジットの国民投票以降で外人投資家が消えて不振に陥っていた。

 

 2020年3月のロックダウン時には、不動産取引は取引途上段階でもその状態で停止するよう求められた。すなわち「だるまさんがころんんだ」状態になり、あちこちでずっこける業者さんが出た。

 その後、新型肺炎による景気急落を恐れたイギリス政府は、住宅市場を景気急落のストッパーとすべく、大胆な手を打った。2021年3月までにクロージングした住宅取引は「スタンプ税非課税」としたのだ。これが住宅市場に大変効いて、イギリス全体で住宅取引が活発化した。

 

 「スタンプ税」というのは登記申請の時にハンコ(スタンプ)を押してもらう為に支払う手数料で、世界的には無い国の方が珍しいのではないかと思うくらいポピュラーな税金だ。住宅市場には過熱や外人取得による弊害等が起こるのが常で、その際に政府は非常に機動的にスタンプ税の税率等を変更して住宅市場に介入する。どの国にとっても重要な政策手段で、日本ではこれが無いために政策出動が後手に回っているのではないかと思われるほどだ。

 

 スタンプ税は一般にかなり高額で、法的性格は日本の印紙税(登録免許税)なり不動産取得税と似ているように見えるが、実態は全く異なる役目も持つわけである。

 

 イギリス全体で不動産市場が活況な中、ロンドンの中心部の住宅だけは不調のままなのだが、一方ロンドンの外周部の住宅市場は好調だ。説明としては新型肺炎で「密」を避けるなり、在宅勤務その他の理由で「広く大型の住戸を郊外に求める」動きが強いとされる。

 

 おまけだが昔、日本の女性に人気だった田園部のマナーハウス(領主の館)の人気は非常に長らく低迷していたが、昨年から急に売れるようになった。特にロンドンで列車で行けるエリアが大人気だ。マナーハウスは数億円以上はする豪邸でもある。

 先日、非常に高額なマナーハウスが売れたのだが、この物件は民間の小さな飛行場に近く、プライベートジェット利用の際の便利さが気に入られたのではとされている。新型肺炎の感染リスクを避けるためにウルトラリッチはプライベートジェットを利用する、という理屈だ。

 

 それで今後の見通しなのだが、スタンプ税の時限的非課税の期限切れに加えて、従前からこの3月と決まっていた一次取得者向け支援制度の縮小、これに年初からのブレグジット開始が加わり、さらに現下の変異ウィルスによる第三次ロックダウンである。

 

 3月のスタンプ税非課税期限切れをにらんで、現場の感覚では昨年10月頃から取引がスローになっているそうだ。

 

 イギリス人はブレグジットに続き、また「オウンゴール」をやらかす可能性もあるわけだ。

 

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