AIロボットが不動産販売チームの一員に?

 アメリカでは新型コロナウイルスのため不動産の諸手続きが各所で分断されたこともあり、あらためて「不動産テック」が注目を集めている。ここではまずAI(人工知能)を利用して不動産販売・仲介の現場を支援するロボットからご紹介したい。

 

 「ゼニー」という名のロボットは身長が90cmで、iPadが顔になっている。3年前に開発され、もう数千ヶ所の販売場所に送られてきたという。不動産の販売現場での来場客からの質問は、類型的な部分がある。ゼニーがつながっているAIにその物件の諸情報を教育して、ゼニーが来場客の質問に答える。そのやり取りをオフィスから聞いていた「担当者」が頃合いを見て登場、ゼニーから仲介業務を引き継ぐ。これにより人間の担当者の負担が減ると同時に効率化されると想定されている。

 また購入検討客は定休日や深夜にゼニーにアクセスし、質問が可能だ。ゼニーを遠くの現場へ派遣して、オフィスからの遠隔操作で顧客に対応することも可能だ。

 

 一方、ゼニーには限界もある。「生身の人間」の重要性だ。買い手は多くの場合、仲介担当者が「自分を理解している」こと、あるいは仲介担当者との「関係性を構築する」ことが必要だと感じている。ましてやゼニーではクロージングには持ち込めない。

 会話(チャット)をするロボットは「チャボット」と呼ばれているが、ゼニーはその一つだ。

 

 次に「バーチャル」についてだ。新型コロナウイルスもあって現物をほとんど、あるいはまったく見ずに買う人が増えた。特に建築途上のマンションで顕著だ。さらにニューヨークの投資用物件を南アメリカやアジアの富豪にバーチャルにより販売することに成功した例も出ている。

 

 新型コロナウイルスによりバーチャル販売は大きく拡大した。マンハッタンの新築マンション販売の多くで、契約手続きが部分的にバーチャルで進められた。しかし担当者と一度も面会をしない「完全なバーチャル取引」はまだ全くの少数派である。

 

 もう一件「バーチャル」の話だが、オンラインのリスティングで「3-Dツアー付き」の物件が顕著に増加している。3-Dの撮影は撮影クルーが出張するためにコストが高かったが、屋内を動き回って4K画質で撮影するロボットが登場、費用は延べ床50坪で9万円程度と格安だ。ドローンによる撮影も注目され、中古住宅でも「3-Dと空撮付き」が当たり前となるかも知れない。

 

 日本でも新築マンション販売でこのような例は見られるが、これが「中古住宅一戸」のために可能になる訳だ。先行事例となる超高額の住宅ではこのような映像の効果はてきめんで、お客様は魅入られたように契約するという。

 

 アメリカの住宅ローンの手続きで必要な申請・審査・融資実行、鑑定評価、公証手続きも、急速にデジタル化の機運が高まっている。

 先行しているのは住宅ローンの審査業務で、AIの活用で業務効率が大きく上昇した。アメリカは現在、住宅ローンブームにあるのだが、金利低下もさることながらこの「審査業務のキャパ拡大」も一因としてあげられている。

 一方、問題もある。AIは直近の類似取引事例の中から最も高い比準価格が出る事例を集め、それらを新たな物件の査定に取り込むようにされているという。これではいったん住宅市場が上昇し始めると、おりからの金融緩和もあって「価格上昇の無限ループ」にはまってしまう。ロボットが暴走する例の一つだが、これは十分に修正可能な範囲だろう。

 

 これら以外でも「不動産テック」は百花繚乱だ。問題は使い勝手なのだが、使い手側の生の話がよく伝わって来ない。AIロボットで思い出すのは6年前に世に出た「Pepper」だが、彼らは以前ほどもてはやされなくなった。

 ゼニーの場合は誰がどのようにして彼女を教育するのかが見えていない。かまってはいられないほど「教育」に手間がかかりそうな気がする。

 

 一方、3-D画像やドローンの画像は「編集」の手間が面倒そうだが、これは意外と簡単かもしれない。ユーチューバーたちが手早く、かつ安くこれを請け負ってくれそうだ。

 

 ゼニーがいずれ人間を乗り越える日が来るのか、活躍のステージが減少していくのかはまだ分からない。

 もしゼニーが発展した場合、ゼニーと人間との関係は「ウィンウィン」になると言われている。前述した「理解」や「関係性」もあるが、「部屋がカビ臭い」「トイレの水が流れない」「隣地がゴミ捨て場になっていた」といった話は、ゼニーには永遠に分からないからだ。

 

ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

「グローバル不動産経済研究会」資料会員募集 月額1万円(+税)

問い合わせ f-ree@88.netyou.jp