「サム・ゼル」

 サム・ゼル氏は「現代的不動産ビジネスの創始者」とされている。現在79才でもう半分引退しており「長老(古老)」扱いなのだが、節目において登場するご意見番でもある。

 

 最近の登場では、昨年のWeWorkの危機の初期段階で、「この手のサブリース会社は今まで全てが潰れてきた」と喝破、ほぼそのとおりになった。現在の新型ウィルス下の不動産市場については「今後、売り手は言い値を下げ渋り、買い手は大幅な価格引下げを期待し、そのギャップはディストレストファンド(はげたかファンド)が埋めるだろう」としている。

 

 彼の往年のニックネームは「墓場のダンサー」だった。経営不振になった会社や不動産が発生すると、そこには必ず彼が現れたからだ。安く取得した商業不動産はその種別ごとに「オフィス」「賃貸マンション」「その他」に分けて保有・運用していた。昔の海賊のような風貌は、今はすっかり柔和になっている。

 

 彼が世界を驚かせたのは2007年2月のオフィス・ポートフォリオの売却で、額は390億$(4.0兆円)とアメリカ史上最大のディールだった。この年の夏には翌年のリーマンショックにつながるサブプライム危機が起こり、売却としては最高値、かつ最後のタイミングだった。

 

 しかしこのタイミングのすごさについてサム・ゼル氏は、「とんでもなくいい値段を言われたので売っただけだ」としている。 

 

 買ったのはブラックストーンだが、同社はディールのクロージング(物件引渡し)前から取得予定のビルの一部を機関投資家に売り始め、これにも驚かされたものだ。このポートフォリオには約500本のビルが含まれておりブラックストーンはこれらを非常に緻密に分析、高値で売れるものはただちに高値で売っていた。投資資金に対して最終的には3倍のリターンがあったとのことで、これを担当したヘッドは後にブラックストーンの社長兼COOになっている。これはプロ中のプロ同士の取引だったわけだ。

 

 サム・ゼル氏は2015年に「賃貸マンション・ポートフォリオ」を売却した。戸数は約2.3万戸で価格は54億$(5600億円)、買主はスターウッド・キャピタルだ。

 

                         ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

週刊住宅

2020年11月16日号掲載