1992年、ウォルト・ディズニー社はユーロ・ディズニー・リゾートの第一期をパリ近郊でオープンした。核となる東京ディズニーランドと似たテーマパークの他、大型ホテル6棟等、第一期分だけで600ha(180万坪)あった。ここではディズニー社の驚嘆するようなリスク回避の枠組みをご紹介しよう。
事業主体の「ユーロ・ディズニーSCA」は株式会社ではなく「合資会社」で、「経営権を持ち無限責任を負う出資者」と、「経営には関与できないが有限責任しか負わない出資者」により構成される。後者の「有限出資持分」しか上場させないことで外部からの経営介入を不可能な物としていた。無限責任連鎖を途中で断ち切る仕組みも施されていた。
驚くことに同社のこの上場はパークのオープンの前に実施されていた。前評判だけで株は売り切れ、ディズニー社は売上げが全くない段階で開発費のかなりを回収してしまっていたわけだ。
パーク内の施設やホテル用不動産等は金融機関と共同設立した会社に保有させ、リースを受けていた。たぶん資金調達やオフバラによる財務の軽減を狙ったものだろう。
しかしいざ開業をするとフランス人たちは大変な拒否感を示した。「白雪姫やシンデレラなどはヨーロッパ起源の話でありアメリカ人によるリライトには興味は無い」「ミッキーとは要するにネズミだ」「ワインを飲ませないというのはフランスの食文化への挑戦だ」・・
ディズニー社はあわててドイツ人の集客をはかったが、期待には達しなかった。その後、大型の追加投資も実施したが今日に至るまで長期間、低迷が続いている。先日はシンボルの「眠れる森の美女城」が薄汚れて古びてしまったと揶揄されていた。
新型ウィルスで世界中のすべてのディズニーのパークが一時、閉鎖された。期待の大作映画のムーランでは人権問題批判もあるが、肝心の中国人たちからの評判も悪い。「違う」のだそうだ。パリでの拒否感とそっくりである。
たぶんディズニーの最大の試練はパークを再開してからだろう。新型ウィルス後の世界では、ただのネズミや子豚が踊っているようにしか見えなくなっている可能性がある。
週刊住宅 2020年11月2日発行 ジャパン・トランスナショナル 坪田 清
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