増加しているアメリカの裏口上場(SPAC)

 アメリカで「特別目的買収会社」と呼ばれる一群の会社を利用した新規上場が増えている。

 9月末時点で年初からのこれによるIPO資金調達額は412億$(4.37兆円)で、通常のIPOと並ぶ。

 

 特別目的買収会社はその頭文字で「SPAC」とも呼ばれ、また投資家はSPACがどんな会社に投資するか(合併するか)わからない段階で出資するので、「白字小切手会社」とも呼ばれている。

 「バックドア・リスティング(裏口上場)」による新規上場の一形態を目的とする。

 

 日本でも似た仕組みの「裏口上場」があるので、こちらから確認しよう。

 東京証券取引所で上場審査をするのは(私が知る頃は)、同取引所の「上場審査課」だった。

 

 1973年、殖産住宅相互事件で中曽根代議士への政治献金が疑獄化した。

 *この事件により、上場審査課による審査は一挙に厳格になった。 

 1988年、リクルートコスモス株式事件が発覚し、大型の贈収賄事件となった。

 *これは当時の店頭登録での話であり東京証券取引所は絡んでいない。

 

 上場審査を逃れて上場するのが「裏口上場」で、日本の場合は次のように行われる。

 かなり昔に上場し今は非常に業容を縮小、しかし上場はし続けている会社と話をつける。

 上場審査は面倒で時間がかかるので前記の(上場)会社と合併して、新規上場と同じ効果を得る。

 

 アメリカでも新規上場の審査は厳しい。

 SPACの経営者は(上場基準を満たした形だけの事業を行い?)、先行的に上場させておく。

 この際に投資家に将来「有望な会社と合併をする」とだけして前記の上場株を売る。

 SPACと合併させる「ターゲット」と合意する。「ターゲット」は上場審査手続きを省きたい会社がなる。合併手続きにおける法的な存続会社は(上場済みの)SPACである。

 *この際に、前記の上場株への投資家のうち、「SPACが決めたターゲットに対して不服な投資家」へは出資を払い戻す。

 *「払い戻しを受けられる」ことがアメリカの制度の特徴で、これにより資金が集まりやすくなっている。

 SPACとターゲットは合併し、ターゲットは新規上場と同じ効果を得られ、SPACへの投資家も利益を得る。

 

 これが今年は多すぎ、アレ?と思われているわけだ。

 

 日本関係ではソフトバンク出資のIT不動産、オープンドアがSPACで新規上場を予定している。

 ビジョンファンドのトップ、ミスラ氏はSPACを利用してしたビジネスを展開するとしている。

 

 ちなみに孫CEOは昔は「IoTだ、アームだ」、その後「AIだ、ビジョンファンドだ」と言っていたが、今は「ヘッジファンド」になろうとしている。

 去年まであれだけ大騒ぎしていたビジョンファンドの話はもうまったく聞こえない。

 

 孫CEOはソフトバンクの株価が割安だとして常々不満を述べているが、これは「コングロマリット・ディスカウント」なんかではなく、「ビジョンが定まらない『ばくち打ち』にはお金なぞ出せない」という性格のディスカウントに見える。

 「事業がなんだら、ビジョンがなんだら」ではなく、「その時にリスクテイクが可能な額の目一杯以内」という事だけが投資基準の、孫CEOの気まぐれによる話だと海外投資家には見えてしまっているわけだ。

 

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