イギリスで問題化している「リースホールドの囚人」と上昇する借地料

 「リースホールド」というのは、通常「借地権」と訳されるが、Wikipediaを見ると「土地や建物を『時限的にholdする』権利」とある。

 一方、「(完全)所有権」には「フリーホールド」「フィー・シンプル」が対応する。

 「フィー・シンプル」はフランス語由来の表現だ。古英語では「純粋な(形で与えられる)報奨」の意味で、たぶん王様が家臣に与える報奨の形態の一つに、「(時限的な制限も含めて)どんな制限もない、純粋な形で与える褒美」ということに由来したのだろう。

 

 リースホールドも、中世・封建制度の時代にさかのぼる。きちんとした議論する際には古英語や中世の慣習にさかのぼるらしい。

 イギリスで現在、起きている問題は「リースホールドで建っている住宅の地代」の問題だ。リース契約の中に10年ごとに地代が倍になる契約となっているものがあり、一部で結構な額になってしまった。ホームビルダーから十分な説明を受けていない例もある。増改築の際に土地所有者に承諾料を払う事になっている場合もある。リースホールド上の住宅は、イングランドとウェールズだけで430万件だ。

 リースホールドの解約は非常に難しく、またリース契約が90-120年という超長期の物もある。10年ごとに地代が倍になるので、このような住宅の所有者(借地人)は「リースホールドの囚人」と呼ばれている。

 

 アメリカではクライスラービルのリースホールドの問題がここ数年、話題になっている。根っこは同じような問題なのだが、マンハッタンでの話なので年間地代は3250万$(34.45億円)もする。不動産大手のRXRリアルティが今年5月に割って入り、今後の展開が興味深い。

 

 日本では東京大学稲本洋之助教授のご努力で1992年に定期借地権制度が施行された。歴代の先達の懸案だった「有期性」について稲本先生が歴史的と言える変更を行った訳だ。

 しかし、なぜか定期借地権制度ではマンションへの手当てがない。期間満了時の取り壊しは区分所有者たちの連帯債務であると思われるが、スムーズに行くわけはないだろう。

 

 不動産法が国民の腑に落ちる形で制度化できている国など、たぶん存在しない。日本の場合、明治の民法制定時に、大激論の末に「土地所有と建物所有は別々(独立)とする」となった。当時の記録では「家が空を飛ぶ訳がなく土地は建物に付随すると考えられるであろう」という事であきらめたらしいが、議論に疲れ果ててしまったようにも見える記録だ。

 

 江戸時代には市中で火事が頻発、燃えてなくなる木造の建物よりも土地の方が重要な資産だと考えられ、従って「土地所有と建物所有は別々」という考え方が主張された事にももっともな面がある。石造りのヨーロッパの国とは、異なって当然なのだ。

 

 日本の「借地権」は、土地を借りるというよりも、「土地と建物の所有権の食い違いのための調整」に近いという意見を聞いた事があるが、これにも一理ありそうだ。だいたい、期限が来た時に貸した側に「正当な事由」なないと返してもらえないというのは「貸し借り」ではない。

 

 借地・借家関係の整備にはまだまだ積み残しがあり、次の世代の課題だ。

 定期借地権導入議論当時の前提は「日本では借地の供給が少ないために住宅価格が高い」だったが、今後は人口減少や空き家の増加が起こる。新しい前提が必要になる時代が来るだろう。

 

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