売り上げ不振で「コンバージョン」される小売用建物

 「コンバージョン」というのは、建物の用途変更を伴う大改装です。代表例はマンハッタンの超名門ホテルのウォルドルフ・アストリアで、以前は1,413室だったホテルを375室に縮小し、残りの約1,000室は何室かずつを連結してラグジュアリー分譲マンション・375戸とする工事が進んでいます。これは「ホテルからマンションへ」のコンバージョンです。

 

 今、注目されているのは小売用の建物を他の用途にコンバージョンするケースです。

 

 不調に陥ったモールの大型デパートの退店跡にコールセンター等のオフィスが入居する例は数年前から各所で見られましたし、ジムや医療モール、レストランが集まるコーナーを加える、あるいは駐車場にホテルやマンションを追加で建てるという例もありました。

 

 しかし先日、アマゾンが発表したサイモン・プロパティの各所のモール内の大型空室に「物流センター」を設置するという話は、従前のパターンとは異質です。これは「小売用建物から物流施設へ」の本格的なコンバージョンであり、新しいフェーズなのです。

 

 モールなり小売店にとっての最大の「敵」はオンライン通販ですが、両者がモールの中に同居することになります。これは小売店側にも意外なメリットがあるかも知れません。

 

 というのもアマゾンには「物流会社」という面があるからです。同社は配達サービスの充実に執拗にこだわり続け、今は「店まで買いに出かけるよりもアマゾンで買った方が早く着く」事を目指していると言われています。モールの中にアマゾンの物流センターがあれば、モール内の小売店群はこの物流能力に簡単に相乗りできる可能性がある訳です。

 

 アマゾンはニューヨークの五番街にある老舗の百貨店、ロード&テイラーの旗艦店を買い、オフィスにします。ロード&テイラーはアメリカ最古の百貨店で旗艦店は歴史を刻んだ趣のあるビルですが、これが「小売用建物からオフィスへ」とコンバージョンされます。

 

 ちなみにアメリカでは中小規模の教会もよく住宅にコンバージョンされます。信者の減少で修理費が足りないためです。外観や内部の空間の作りが一般の住宅と違うので独特な味わいがあり、さらに何といっても「教会に住むことができる」のでこれらを好む人がいます。

 

 諸外国では新築の為の建築許可の取得は大変です。行政との交渉や近隣住民の反対運動等、何が起こるか分かりません。その点、コンバージョンでは外観の変更なく、手続きがかなり簡素化され建築コストも新築より三割程度安いようです。日本では耐震性や容積、設計事務所の機能の違い等の問題がありそうですが、「慣れ」が最大の障害のように思います。

 

 海外からは「日本人はすぐ壊す」と不思議がられます。近年、取り壊しを批判的に言われた建物としては赤坂プリンスホテルやホテルオークラ、日本興業銀行本店などがあります。

 

                                                                         ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

三井不動産リアルティ㈱

REALTY-news Vol.65 10月 2020年 掲載

 

「グローバル不動産経済研究会」資料会員募集 月額1万円(+税)

 問い合わせ f-ree@88.netyou.jp