アメリカで「ホテルのカラ売り」が始まりそうな気配/CMBX 9とは

 新型肺炎に伴いアメリカで最も痛撃を受けているのは「モール(商業施設)」と「ホテル」だ。このうちモールは新型肺炎以前から苦しい所が多く、前から「CMBX」という指数でカラ売りがかけられていた。この指数はもう十分価格が下がる等をしたため、カラ売りの対象がモールからホテルに移り始めている。

 

 モールのカラ売りで使われた指数はCMBX 6 で、今回のホテルで使われるのはCMBX 9 だ。CMBX シリーズの中で、前者は小売用不動産向けローンが多く、後者はホテル向けローンが多い(といっても17%に過ぎない)。

 

 現状の報告の前に「モールやホテルをカラ売りする」とはどういう事をいうのか、あらすじを書いておこう。

 

 まず銀行やレンダーが、商業不動産ローンを貸し付ける。

 投資銀行がSPCを用意し、銀行から100-300本のローンを買い集め、B/Sの左に載せる。

 B/Sの右にはあとでボンドとなる10個程度の「箱」を用意し、それらの中での元利払いを受ける優先順位を決めておく。

 B/Sの左に載せた各ローンから元利払いがあったら第一優先の「箱」で返済を受ける。

 第一優先の箱が埋まったら第二優先の箱、それが埋まったら第三優先の箱という順で埋める。

 これを「優先劣後構造を付ける」、あるいは「トランチ(トランシェ)を切る」という。

 

 優先順位の高い箱ほど、デフォルトのリスクは明らかに少ない。 

 即ち、AAAだ。次の箱はAA+、その次はAA、AA-、A+、・・・BBB+、BBB、BBB-、ここまでが投資適格だ。

 各「箱」は小口化されており、投資家はリスクとリターンと自分の予算を見ながら投資する。

 これが「CMBS(商業不動産モーゲージ証券)」である。

 

 CMBSは万一倒産することがある。

 第三者と「保険料(スワップ料)を払うので、CMBSの倒産時には額面分ください」という契約が発達した。

 これを「CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)」、ニックネームを「倒産保険」という。

CDSはCMBS以外でも広く取り引きされていて、余資運用とうかつに考えて大やけどをする会社がある。

 法的には「保険」ではなく、「債権債務関係の付け替え」、即ち「スワップ」である。

 

 このスワップ料(保険料類似)が、CMBSの信用力に応じて変化する。CMBSの信用が薄れると高くなる。

 現在、ホテルが苦境にあり、するとホテル向けローンが債務不履行を起こし、それらが重なるとCMBSの下位のトランシェ(箱)から債務不履行に陥る可能性が高くなる。

 するとこのトランシェのCDS料は高くなる。

 

 CMBXは複数のCDSを合成した指数だ。債務不履行が増えそうだと価格が下がる形で組成されている。

 CMBX 9 は、25本のCMBSと緋づいたCDSから合成されている。

 特徴はほかのCMBX指数に比べて、ホテル向けローンの割合が多いことだ。このため、「ホテルのカラ売り」に使われるだろうと見られている。 

 

 CMBX 9 の中の投資適格最下位である「BBB-格」の価格推移を見ると、3月初旬はほぼ額面どおりだったが、4月下旬は額面1$につき65.5¢に下落した。その後盛り返して6月中旬がピークとなり85¢、8月27日の価格は79¢だ。

 

 今後、ホテルの債務不履行が多発して、CMBX 9 が大幅下落すると見込んでいるスジが出ているわけだ。

 

「グローバル不動産経済研究会」資料会員募集 月額1万円(+税)

問い合わせ ジャパン・トランスナショナル f-ree@88.netyou.jp