「エンパイア・ステート・リアルティ」

 同社はビル等14棟を保有するオフィス・リートの準大手だが、保有資産はエンパイア・ステートビルに大きく偏り、さらに営業利益の25%がこのビルの展望台からという特殊な収益構造である。従って「エンパイア・ステート・リアルティ」を語ることはイコール、「エンパイア・ステートビル」そのものを語ることになる。

 

 同ビルは投資家のグループが企画・建設、しかし竣工が大恐慌の入り口である1931年となってしまった。竣工初年度の稼働率は僅か23%で「エンプティ・ステートビル(空の状態のビル)」と揶揄され、ビルが利益を生むようになったのは1950年代だ。

 

 その後、サブリースを前提とした会社にマスターリースを貸し出し、それらがさらにまたがって孫サブリースとなったり、一方でビルの所有権が細分化されて投資家に譲渡されたりしたことも重なって、権利関係が極端に錯綜したビルとなってしまった。

 

 1991年に実業家の横井英樹氏が赤坂でのホテル火災の責任による収監中の身でありながら代理人を通じて4200万$(44.5億円)で取得したのは、このビルの「底地」だ。3年後にドナルド・トランプがこれに合弁で加わった。二人の狙いはビルそのものの取得だったとされるが、このビルは大小さまざまなこの手の話の塊だった。

 

 2007年にビルの主力オーナーだったマルキン・ホールディングスが事態を打開するために本格的に動き出した。大規模リノベを実施、賃料が低水準の長期リースの終了を待ってテナントを入れ替えつつ権利関係を整理するといった地道な作戦により、なんとかめどが立ったのは2013年だ。

 

 マルキンの整理によればエンパイア・ステート・ビルへの投資家は3590人だった。その60%、票数にして4分の3の賛成を得て「エンパイア・ステート・リアルティ」が上場した。同社は同ビルとおまけの10数本のビルを保有したリートとして、今日に至っている。

 

 「エンパイア・ステートビルの展望台」だが、4年と1.65億$(175億円)をかけた大規模リノベが2019年10月に完了した。同展望台の平均入場者数は年間400万人だ。新型肺炎による展望台の閉鎖で入場料収入が一時途絶え、同リートはもろに直撃を受けた。

 

 現在、ニューヨークでは「超高層ビルの展望台ラッシュ」が起きている。ワン・ワールドトレード・センターなど数本が「名所」となることを狙っているわけだ。しかし観光客が展望台ばかりをそんなにいくつも回るとは思えない。一ヶ所だけ上るとしたら、やはりエンパイア・ステートビルとなるだろう。

 

週刊住宅 2020年8月3日号掲載