ソフトバンクで進行中のスキャンダル3題/ワイアカード、クレディスイス、アーム中国

 ソフトバンクの孫CEOは以前「決算がボロボロです」としたが、海外メディアの間では「決算が」どころではなく、「会社の信用そのもの」が危険水域に陥りかけている。

 同社は資産売却が進み財務的には余裕がある点は、ほとんど評価されていない。現状のように各種の悪材料の集中砲火を浴びる状態になった会社の多くはそのうち致命的な新事実が明るみに出て、破綻なり事業を縮小して身売りとなる場合が多い。

 

 現在進行中のスキャンダルは次の3つだ。

 

・ドイツのフィンテックのワイアカードはフィリピンの銀行に預けたとしていた巨額の預金の証憑が架空の物と判明し、破綻した。ワイアカードはドイツの金融当局が同国の新しい金融業の柱にしようと考えていて、以前からのたび重なる不正会計疑惑報道の際も同社株のカラ売りを規制して保護を図る等、無理な肩入れをしていた。今は同国の金融行政の根幹にまで疑問がもたれている。ドイツ政府としては大変不名誉な批判を浴びている状態で、今後は「ユーロの盟主」とはみなしてはもらえなくなる引き金となる可能性が高い、大事件だ。

 

 不正会計疑惑報道以降、ワイアカードの株価は大きく上下した。安値圏にある時にソフトバンクとの「戦略的提携・1000億円の出資」を発表、同社の株価はただちに上昇した。

 疑問が持たれるのはこの「1000億円の投資」において、ソフトバンクは一銭のキャッシュも出さずに、しかしソフトバンクの(孫CEOを除く)エグゼクティブ達がそろって株価上昇でぼろもうけをしていたとみられる点だ。

 この魔訶不思議な取引はクレディスイスが組み立てたディールだ。クレディスイスはワイアカードに1000億円の出資がされた形にすると同時にワイアカードの別の転換社債に組み替えて同行のクライアントの投資家に売り切った。このディールはワイアカードも承認を与えている。

 

 この部分は(メディアでは説明が不可能なくらい)複雑なディールだとされている。しかし「一銭も出さないのにソフトバンクのエグゼクティブ達が大儲けをした」という点はどうみても怪しく、各メディアはしつこくこれを繰り返している。なおこの転換社債はその後、ワイアカードの破たんで暴落、買った投資家はいずれ追及をすることになるだろう。

 

・次のスキャンダルはやはりクレディスイスが絡むもので、ソフトバンクが同行へ出資し、その多くがビジョンファンドが出資しているオヨ他の資金難の会社へ再出資されているという話だ。つまりソフトバンクが出資先への追加金融支援をクレディスイスのファンドを隠れ蓑にして行っているわけだが、これは「循環出資」だと表現されている。

 

 すなわち、「関係会社間で資金を循環させて、見せ金により見せかけ上の資本を膨らます」のと同種の行為だと見られるようだ。資本主義の制度上、「循環出資」はやろうと思えば防げない。日本では倒産したデパートの「そごう」が循環出資で知られているが、タブー行為の一つだ。

 

・最後はアームの中国法人のCEOの更迭が出来ないというソフトバンクの不手際だ。同CEOはアーム中国とは別建てのファンドを設立して、アームの技術をそちらへ流している。

 アームの半導体技術は世界で圧倒的シェアを持つ最先端技術だが、ソフトバンクの子会社経営の不手際によりこのような技術が中国に流れている。これは米中摩擦下にあるアメリカも非常に嫌う状態で、ソフトバンクの不手際による西側社会の不利益は金銭換算できない。

 

 以下では、上記3点に関して私が目についた海外メディアの当該部分の抄訳だ。

 長いので、飛ばし読みされたい。

 

<<ワイアカード関係>>

                            

ワイアカード、巨額の不明金問題で株価が急落 (BBC 2020.6.18・木)

 ワイアカードの帳簿上の不明金19億€(**億円)は同社のB/Sの4分の1に相当する額で、会計監査人を欺こうとした証拠がある。このスキャンダルは昨年、フィナンシャルタイムズにより明るみにされていた。

 

ワイアカードへのソフトバンクの過去の出資が問題に (BB 2020.6.19・金)

 メルトダウンしたワイアカードには、昨年ソフトバンクが10億$(**億円)の出資の後、これを仕組み証券として処分した。ワイアカード株は出資発表で急騰し、仕組み証券は現在暴落状態だ。取り引きはアブダビとソフトバンクの従業員個人が行いソフトバンクなり孫CEOの関与は不明だが、孫氏CEOにとってはまずい話だ。

 

ワイアカード、CEOが辞任 (FT 2020.6.20・土)

 巨額の資金消失が起きたワイアカードの株価は2日間で7割下落、CEOは辞任した。FTはワイアカードの売上げや利益のかさ上げを含む、複数回に渡る会計詐欺を18ヶ月間に渡り追及していた。消失した資金が帳簿上、預けられていたとされるアジアの銀行の幹部は「そもそもそのような口座が当行には存在していない」とした。

 

ワイアカードで消えた19億€とソフトバンクの関係者達 (WSJJ 2020.6.20・土)   

 ワイアカードは信託を用いて明らかに資金消失を仮装隠蔽していた。同社は2019年4月にソフトバンク関係から10億$(**億円)の投資を受けるとしたが、実際に出資したのはソフトバンクの関係者たち数人とアブダビで、これはクレディスイスによって売却された。ドイツの金融当局はワイアカードを犯罪容疑でファイルした

 

ワイアカード株暴落とソフトバンクとの提携 (日経Asian Review 2020.6.22・月)

 ワイアカードは2019年に「ソフトバンクの関連会社」から9億€(**億円)の出資を受けるとした。ワイアカードは21億$(**億円)をフィリピンの銀行2行に預けていたとしているが両行ともこれを否定、そもそもワイアカードの口座はないとし、中央銀行もワイアカードの取引がフィリピン国内の持ち込まれた痕跡はないとした。

 

ソフトバンク首脳陣が一部取り損ねた怪しげな利益 (FT電子版 2020.6.22・月)

 ソフトバンクは2019年4月にワイアカードと提携を目指すとした。9月の調印の翌日、なんとソフトバンク子会社はその出資分を転換社債の形で売却した。これにより同社は現金を出す前に数千万$(**億円)の利益を手にした。これは仕組みエクィティと呼ばれる物で、ミスラ氏や配下のナヘタ氏が編み出した取引だ。この債券の販売はクレディスイスが行ったが債券格は現在13¢に暴落し、同行のクライアント達は巨額損となっている。

 

ワイアカード問題でソフトバンクの首脳陣が受ける打撃 (FT 2020.6.24・水)

 ワイアカードの株価の暴落でソフトバンクのエグゼクティブ達とアブダビのSWFが得ていた数億$(**億円)の株価評価益は消し飛んだ。この評価益は同社への10億$(**億円)の複雑な取引で上手に得たものだった。

 

ワイアカード、破綻 (REU 2020.6.25・木)

 ワイアカードが破綻した。アーンスト・ヤングが不正会計を公表してから7日後だった。

 

ソフトバンクの転換社債と銀行群が増幅させたショック (WSJJ 2020.6.25・木)

 ソフトバンクの関連会社が昨年9月にワイアカードに9億€(**億円)を転換社債で出資する際、クレディスイスはこれをパッケージとして即座に投資家へ売却したので、両社は先週のワイカード株の暴落でも損害は無かった。ソフトバンクが無傷だったのは元々の投資をソフトバンクのエグゼクティブ達が組み立てた際、ソフトバンクからではなく、アブダビ+ビジョンファンドのミスラやナヘタ他組成のファンドから出資がされたからだ。

 

ソフトバンクがワイアカードの破綻に絡む部分 (WSJJ 2020.6.27・土)

 ワイアカードは信用枠17.5億€(**億円)、社債5億€(**億円)の他、転換社債9億$(**億円)がソフトバンクの関連会社に販売された後に、クレディスイスが実質的にパッケージ化して外部の投資家へ売却した。

 

ワイアカードはソフトバンク抜きでも何でもありだった (BB 2020.7.2・木)

 ワイアカードがソフトバンクからの転換社債9億€(**億円)の入金要求の前に、この転換社債の転売のディールを承認したように見えるのは、非常に当惑する話だ。クレディスイスがこの転売を仕組んだにしても、ワイアカードへの疑惑が広がっている中で、なぜソフトバンクが出資をしたのかは不可解だ。ソフトバンクはビジネス上の振る舞い、戦略、ビジョン等の全てが悪化しつつあり、孫CEOの評判は再度、悲惨な物になるだろう。

 

ワイアカードとソフトバンクの込み入った提携関係、解消へ (BB 2020.7.2・木)

 ワイアカードとソフトバンクが昨年9月に発表した戦略的なパートナーシップは短命に終わり、昨年の9億€(**億円)の投資を裏づけにした金融商品も終わりになりそうだ。この金融商品は複雑でソフトバンクのワイ亜カードへのリスクを外してワイアカードの転換社債裏づけとしてクレディスイスが投資家に売却した。

 

ソフトバンクはただで儲けたお金が実はコストがかかる (BB 2020.7.3・金)

 ウォレンバフェットが買った瞬間にその株は値上がりするが、ソフトバンクの孫CEOも同様だった。この投資を現金化する時の事を考えさせるのがワイアカードのケースだ。ソフトバンクが一銭も出していないのにワイアカードはディールを承認した模様だが同社株は25%以上も急騰、ソフトバンクのエグゼクティブ達が儲けた。

 

ワイアカードのソフトバンク絡みの商品がオークションへ (REU 2020.7.3・金)

 複雑な取引によりソフトバンクによるワイアカード向けの出資はクレディスイスの処理で同社の転換社債9億€(**億円)となり投資家に販売されたが、同社の破綻で7月8日にオークションにかけられる。この取引は」ソフトバンクが取得した転換社債をリパッケージして利益を出して売られた物だ。投資家は大きな損失となる。

 

ワイアカードとの提携関係を終わらせたいソフトバンク (WSJJ 2020.7.3・金)

 ソフトバンクはワイアカードに対して距離を置こうとしている。2019年9月の同社の転換社債のディールではソフトバンク自身は資金を一切出しておらず、アブダビからのコミットメントによるファンドが出資した。しかしそれらのほとんどは直ちにクレディスイスにより売却されたのだが、これらの価格は今や額面の10%だ。

 

 

<<クレディスイスのファンドを経由した循環出資関係>>

ソフトバンクがクレディスイス系ファンドに5億$を出資 (FT 2020.6.15・月)

 ソフトバンクはクレディスイスの投資ファンドに静かに5億$(535億円)を出資したが、これはビジョンファンドが出資していて経営難の会社へ流れる仕組みとなっている。融資先の破綻が相次ぐグリーンシルや、経営難おホテルのオヨ、経営難の自動車サブスクリプションのフェアに流れている。

 

ソフトバンク、クレディスイスを漏斗にして資金を集中  (FT 2020.6.16・火)

 ソフトバンクは金融の怪しげな話を教育してくれる。今回の履修科目は「自分が投資済みの会社にさらに資金を落とす方法」だ。同社はクレディスイスのファンドを通じてビジョンファンドが出資済みの会社に追加で資金を流した。明らかな利益相反の部分があり、またリスクがますます集中する。同社株は昨日3%下落した。

 

ソフトバンクの循環出資とクレディスイスへの再調査 (FT 2020.6.25・木)

 ソフトバンクは5億$(**億円)をクレディスイスの75億$(**億円)規模のサプライチェーン金融ファンドに出資、ここからオヨやフェア他のビジョンファンド出資の不振のスタートアップ宛にも資金が流れていたのは既報の通りだ。循環出資の中心にあるのがグリーンシルで、ソフトバンクが出資先への資金の追加供給に用いていた。しかしグリーンシル自体はこれはクレディスイス内の内部取引であり同社は関与していないとしている。

 

ソフトバンクからの出資に対しクレディスイスに再調査 (WSJJ 2020.6.27・土)

 クレディスイスの資産総額75億$(**億円)のファンドではソフトバンクが3通りの役割を果たしていた。グリーンシルとの取引はこれらを隠蔽する事も兼ね、ソフトバンクは貸し手であり借り手でもあった。クレディスイスのファンドのポートフォリオ上位10社のうち4社がビジョンファンドの出資先で、これらは合計総額7.5億$(**億円)の資金を受けている。ソフトバンクはさらに5億$(**億円)をクレディスイスに出資している。

 

 

<<アーム中国関係>>

アームの中国法人、CEOの更迭問題で悶着 (BB 2020.6.11・木)

 ソフトバンク系のアームの合弁会社、アーム中国の役員会が現職のCEOの更迭を決めたが当CEOはこれは無効だとしている。同社はソフトバンクがアーム経由で49%を保有、中国投資公司やテマセクが出資している。

 

アームの中国法人のCEOが更迭できないという問題 (BB 2020.6.20・土)

 アームの中国法人のCEOは同社からの技術を流出させる為のファンドを独自に作っている為、ソフトバンクやアームは同CEOの更迭を決議したが彼は退任しようとしない。中国の規則では退任させる事は困難なのだ。

 

難航に直面するアームの中国現法のトップ更迭問題  (FT 2020.6.27・土)

 ソフトバンクが図っているアームの中国現法の呉CEOの退任は同氏が退任を拒否し、社印も渡そうとしない。ソフトバンク側は当局に新しい社印を依頼しているが、社印や事業ライセンスを得るには数年かかる。