「ジロー」

 ジローはアメリカ最大手のオンライン不動産検索サイトだ。ニューヨークでは「ストリートイージー」という名称でサービスをしている。

 

 プラットフォームを用意し、売り委託を受けた仲介業者が情報を投稿、買う側がこのプラットフォームで検索する。使い勝手が良いために非常に多くの人がアクセスする上、基本情報の投稿料は無料なので売り委託を受けた業者はほぼ100%、ジローへ投稿している。写真ほかの追加料金や検索順位を上げるための料金等が有料で、これがジローの収益となる。

 

 ジローはアメリカの住宅仲介のビジネスを大きく変えた。しかし設立から24年も経つのに、未だに赤字だ。ITビジネスでは「シェアを取れれば巨額の利益を得る」という話がよく出るが、ジローは既に圧倒的なシェアを取っていながら赤字なのでこの説は怪しい。

 

 アメリカの仲介では売主のみが売主側の業者に手数料(4-6%)を払い、買主側の業者には売主側の業者から支払う。ところがジローの普及で買いの希望者は売り側の業者へ簡単にたどり着くようになった。この場合、売主側の業者は4-6%をまるまる得る。

 

 購入希望客と行う「物件ツアー」も様相が変わった。車に乗ってタブレットでジローのページをめくりながら案内したりする。仲介業者に求められる能力は「いかに多くの物件を知っているか」よりも、「溢れんばかりの情報をどう編集するか」に移っている。

 

 提案書を出して「売主から専任を取る」のも大変な競争なのだが、ここでもジローは大活躍だ。簡単に「画像」が手に入るため、出す「提案書」が段々と豪華版になってきた。写真を多用するため、パソコンの性能が悪いとすぐフリーズしてしまうので勝負にならない。

 

 ジローが作った価格査定計算システムが「ジェスティメイト」だ。2年前、ジローはこれを利用したビジネスに乗り出した。割安物件を買って転売する「アイ・バイイング」あるいは「フリッピング」と呼ばれるビジネスだ。

 

 めぼしい物件に対して買いの暫定オファーを出し、現地訪問して、修理箇所とその費用を見積もる。ジローは手数料を差し引き買取り、小修繕を施した上で転売する。売る方としては手取りの金額は多少少なくなるのだが、売買交渉が不要、現金一括、引越しスケジュールが確定する、家の中を整理する必要がない、オープンハウスに伴う面倒や諸費用がかからない等がメリットだ。

 

 しかしこのビジネス、転売差益が3000万円の物件で数十万円と、あまりにも薄利である。2019年第3四半期のこの部門は赤字だった。新型肺炎の影響が注目される。

 

週刊住宅 2020年5月25日号掲載

 

                      ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清