「CKアセット」

 李嘉誠(リ・カーシン)は中華圏で最も有名なタイクーン(大君)だ。凄腕の富豪実業家であるにもかかわらず非常に愛嬌がある風貌をし、時々、欧米人にはない発想の名言を吐く。セイコーやシチズンのごく庶民向けブランドの腕時計を愛用していた事でも知られる。

 

 プラスティック製のホンコン・フラワーが大当たりし、得た資金を不動産へ投資、通信やインフラ、港湾他でも成功を収めて巨大な帝国を築き、長江実業とハチソンワンポアという二つの基幹会社を持っていた。2015年に両社を再編、不動産ビジネスを「CKアセット」に、それ以外を「CKホールディング」に集約した。

 

 CKアセットの取引は豪快だ。例えば2017年には香港の73階建てのビルの売却を中国政府系の会社に売却して145億香港$(2000億円)もの利益を上げた。

 

 李嘉誠と中国政府は友好的だった。1997年の香港返還当時、中国政府は予想に反して彼のような資本家は西側の資金や技術を得るために重要だとして大切にした。

 李嘉誠は北京の中心地、ワンフーチン(王府井)での超巨大開発の利権を得た。

 

 しかしこの良好な関係が、今、崩れそうな気配がある。昨年以降、香港で過激化した若者中心の抵抗運動について、原因の一つに貧富の格差なり庶民には絶望的な住宅価格の高さがあると中国政府は考えた。標的となったのがCKアセット他の不動産大手各社だった。その後、新型肺炎問題が起きこの問題は後回しになっているが、今後どう進むか分からない。

 

 李嘉誠は89才だった2018年にCKアセットの会長の座を長男のビクター・李に譲った。日本では次男のリチャード・李の方が八重洲のセンチュリー・プラザ等の取引で有名だが、これは順当な後継と言えよう。

 

 中華圏では、超高齢のタイクーンの後継で問題が起きなかった方が珍しい。ばたっと倒れて一年意識がないまま亡くなるとか、跡継ぎの三兄弟の間で起きた仲たがいで一人が刑務所に入れられるといった例である。マカオのカジノ王の場合は公認の妻が4人、子供が17人もいてスムーズに行くはずがなく、後継問題に動きがあると株式市場に影響が出るほどなのだ。

 

 李嘉誠の場合は後継者の指名が済んだだけマシな訳だが、やはり禅譲後も彼はCKアセットの取引に口をはさんだことがあった。それでも懸念されていた親子関係の混乱がCKアセットのビジネス全般に影響を及ぼすような事態は表面化していない。

 

 香港のタイクーンたちは概して非常に長命であり、ビクター・李が実権を完全に掌握して思うように同社を動かせるようになるまでには、まだ時間を要するだろう。

 

週刊住宅 2020年5月11号掲載

 

ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清グローバル不動産経済研究会資料会員 月会費11,000円(税込み) 問い合わせ:f-ree@88.netyou.jp