ますます伸びると見られている「物流倉庫」ビジネス

 近年、「物流倉庫」は非常に伸びていた。新型肺炎問題により、今後の伸びは加速しそうだ。すでに「倉庫」の括りに入りきらない機能を持つ倉庫も登場、さらに本稿の末尾では今後、大きく伸びそうな分野をご紹介したい。

 

 アメリカの昔の「倉庫」の代表的なイメージは、高速道路のそばにあるとんでもなく大きな平屋の建物だ。

 しかし「翌日配送」が競われるようになり、倉庫は最終顧客に近づくために都市の近くや都市内に建設されるようになると同時に、小型化および一部が高層化した。アメリカで初となる3階建ての倉庫は2019年1月にシアトルで建てられた。

 倉庫が都市部に立地するようになったもう一つの要因が、従業員の確保である。最近の倉庫は昔より大体3-10倍の人手がかかるようになっているとされる。倉庫は中でルンバを立てに伸ばしたようなロボットが無数に走り回ったり、ベルトコンベヤーがますます賢くなったりしていて省力化が進んではいるのだが、一方で後述のように倉庫は多機能化し、行われる業務は複雑化している。配達先に届ける商品を集めるピッキングもそうだが、最近の倉庫は昔より人手がいるようになっているのだ。

 従って従業員の確保は各倉庫における重大な問題だ。コーヒー・バーやラウンジを配したり、アメリカ人女性が好きなネイルショップに出張で来てもらったりしている。バスケットコート付きの所まである。

 

 物流倉庫業界の二大巨頭は、ブラックストーンとプロロジスだ。大型買収だけでもブラックストーンはこの一年間で3件、計186億$(2.0兆円)、プロロジスは2件、計210億$(2.3兆円)を実施している。いかにホットな不動産セクターであるかがわかる。

 

 最近の倉庫事情を見てみよう。

 アメリカの小売では「返品」が非常に多い。さらにこれらの返品は減らす方向ではなく、「いかに簡単に返品できるか」が実店舗やオンライン通販でのセールスポイントになっている。ますます返品が増え、届いた返品の処理をそのまま倉庫で行う所がでてきた。これが倉庫が人手を食うようになっている要因の一つだ。

 倉庫に入荷したものをそのまま倉庫で販売する所も現れた。もともとコストコやサムズクラブ(ウォルマート系)の店舗は倉庫のようなつくりなので、倉庫を店舗にしても不思議はないのかもしれない。倉庫が都市に立地するようになったおかげで可能なビジネスだ。

 

 今後の倉庫の可能性を二つ、あげておきたい。

 

 一つは流通在庫の問題だ。アメリカでもトイレットペーパーや清浄液が棚から消えるという騒ぎが起きたが、比較的早く棚に復帰した。そのマジックは流通在庫だった。各店舗へ届ける配送センターへは地域センターが配達し、大都市によってはその上に総括センターがあり、流通在庫は合計すると3か月分程度あった。棚からトイレットペーパーが一時、消えたのは、店舗内の倉庫から棚へ運んで並べる人手が足りなくて間に合わなかったからだった。

 流通業界も「ジャスト・イン・タイム」として今まで流通在庫の圧縮に励んできたのだが、今回これに、反省が起きている。バッファーも兼ね、在庫は絞りすぎてはいけないという考え方だ。これに従えば倉庫需要は増えることになる。また現在のようなパニックが起きると閉鎖された店舗が多数出て在庫が溜まり、手持ちの倉庫には入りきらなかった。両方とも倉庫は多めの方がよいということになる。

 

 もう一つは「冷凍倉庫」で、これには非常に大きな可能性がある。グロサリー(食品等)はアメリカでもなかなかオンライン通販に移行しなかったのだが、今回の新型肺炎で大きく進んだ。従来、全グロサリー販売の中でのオンライン通販の割合は僅か3%しかなかったが、これが急拡大すれば冷凍倉庫には超巨大な需要が見込まれる。

 「冷凍倉庫」というのは意外と難しい。たとえば「倉庫」だけを冷凍しても意味がなく、配送トラックも含めて一連の物流を途切れずに全部、冷凍しなくてはいけない。冷凍倉庫専門の業界の規模は小さく、またグロサリー大手は個別に自前の施設を使っている。大規模化に成功すると相当な効率が見込まれ、巨大なビジネスになりそうなのだ。 

(ドル=108円 2020年4月16日近辺のレート)

 

                      ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

 

三井不動産リアルティ㈱発行  MFプレス 2020年4月