新型肺炎で炎上してしまったアメリカの不動産金融市場

 新型肺炎はホテルやモールをはじめ世界の不動産ビジネスの各所へ大きな影響を与えています。ここでは「不動産金融」の世界で発生した問題を3月末時点でまとめてみましょう。

 

 アメリカでは、銀行は貸し出した住宅ローン債権の概ね半分を政府系の専門金融機関か民間の投資銀行に売却してしまいます。住宅ローンを買い取った側は数千本を束にしてスライスします。みじん切りにされたこれらの小口の債券がMBS(モーゲージ証券)です。商業不動産向け、即ちモールやオフィスビル、ホテル他向けのローンは投資銀行のみが買い取り、こちらは100本から数百本を束にしてスライスします。これがCMBS(商業不動産モーゲージ証券)です。

 

 MBSやCMBSへの投資に特化したリート(モーゲージリート)や商業ファンドがあります。これらの会社は取得した債券を担保にして銀行から融資を受け、この資金でMBSやCMBSを買い増してきました。こうすれば利益が増えるからです。

 

 このような仕組みを襲ったのが新型肺炎でした。MBSが成り立っているのは住宅ローンを借りた人がきちんと返済してくれるからです。CMBSが成り立っているのもテナントが家賃を払ってくれ、それによりモール等がきちんとローンを返済しているからです。

 

 新型肺炎問題で失業や一時帰休が急増、住宅ローンがいつも通りに返済されるか一挙に怪しくなりました。モールのテナントも賃料を払えそうにないところが続出しています。MBSやCMBSへの入金が減れば配当も減るとの見込みからこれらの価格は下落しました。

 

 先に述べたように、モーゲージリートも商業ファンドもMBSやCMBSを担保にして融資を受けています。担保の価格が下落して担保割れになると、マージンコール(追加保証金請求)が起きます。いわゆる「追証」です。どの会社も手持ちのMBSやCMBSを売ってそれを追証に充てようとすると、「売り」が集中して価格が一段安となってしまいます。売るに売れず、追証に応じられないところが増加しているというのが3月末の状況です。

 

 CMBS市場は崩壊してしまいました。CMBS化することを前提として不動産ビジネスに融資しようと考えていた銀行は、融資ができなくなります。

 

 韓国のミラエ・アセットは中国の安邦保険から58億$(6,322億円)のホテル・ポートフォリオを買う寸前まで行っていました。しかしゴールドマン・サックスは40億$(4,360億円)分のCMBS組成ができずファイナンスをあきらめ、このディールは流れてしまいました。

CMBS市場の機能不全で、表面化せずに流れてしまったディールは他にもあるでしょう。

 

(ドル=109円 2020年4月6日近辺のレート)

                                                                        ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

三井不動産リアルティ㈱発行

REALTY-news Vol.59 4月 2020年 掲載