「ハイ・ストリート」

 「ハイ・ストリート」とは特にイギリスで非常に多くみられる表現で、普通名詞として「繁華街」を指す時と、固有名詞として「ハイ・ストリート」という名称の通りを指す時がある。後者はイギリス全体で5410本あり、中には商店数が3つという超小規模な通りまである。単に買い物をする場所という以上に、地域コミュニティの核の役割もしている。

 

 イギリスでも実店舗は不振で、ハイストリートは長期衰退が続いている。商店数はこの10年間でざっくり5万店、減少したと言われる。プライスウォーターハウスクーパースはもう少し緻密に、主要な500本のハイストリートについてを継続的に調べている。これで見ても低調は明らかで、新規開店数が閉店数に追いついていない。もっともごく直近ではブレグジット問題をメインテーマにした総選挙でボリス・ジョンソン首相が大勝、「ボリス・バウンス(ボリス回復)」と呼ばれる改善が、個人消費にも見られ、一縷の希望となっている。

 

 ハイストリートで閉店の多さが目立つのは衣料品店、パブ、電化製品店、レストランだ。「実店舗」の不振の原因として必ずあげられるのがアマゾンに代表されるオンライン通販で、衣料品店や電化製品店はその直撃を受けている。一方、パブやレストランはオンライン通販では代替できない。庶民は外で飲食する代わりに自宅や友人たちとそれをしているのではと説明されている。

 

 しかしハイストリートの不振については全く異なる見方もある。近年、先進国で進行した所得の二極化でアメリカならモール、イギリスならハイ・ストリートが打撃を受けているというものだ。モールやハイ・ストリートの主要客層は「中間層」なのだが、二極化で中間層が人数も所得も減り、このためにモールやハイストリートでの消費が減ったという説明だが、まだ十分に検証されていない説である。

 

 大手デパートの店舗やナショナル・チェーンも店じまいしている。これらは一昔前、「どのハイ・ストリートも似たようなものにしてしまう(町ごとの味わいがなくなる)」と進出が批判されていた。今は相次ぐ閉鎖でこれらの存在が惜しまれている。

 銀行や不動産店、旅行会社はかつては実店舗なくしては成り立たなかった業態だったが、今はオンラインの店舗に主力が移った。

 

 ハイ・ストリートの衰退を止めようという動きもある。例えばスーパーマーケットの隣に共用のキッチンスペースと食堂スペースを設けて客足を取り戻した成功例などがあるのだが一般に自治体は資金が乏しく、また資金力のあるファンド等は地方のこのようなハイ・ストリートには興味を示さない。

 

週刊住宅 2020年4月6日号掲載

                     ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清