携帯電話ビジネスのためには膨大な数のアンテナ他の通信施設が必要で、これらを保有し携帯電話会社へ賃貸することに特化した上場リート大手がアメリカに3社ある。アメリカン・タワーが最大手で国内に4.1万施設あり、インドや中南米、アフリカといった全世界では合計すると17.1万施設を保有している。
いわゆる「インフラリート」の一つだが、他のインフラと区別するために「アンテナリート」「基地局リート」とも呼ばれることもある。基地局における大手3社のシェア合計は約3分の2で、競合となりうるような新規参入はもう難しい。銘柄数はごく僅かなのに、オフィスリートや賃貸マンションリートより時価総額が大きなセクターでもある。
今後の5Gの拡大への期待や、さらには自動車の自動運転で致命的に重要になると見られることから、アンテナ・リートの株価は上昇中だ。アメリカンタワーの時価総額は2月、約1140億$(12.3兆円)に達した。常識的な意味でのアメリカ最大の不動産会社、サイモン・プロパティ(SCリート)やプロロジス(物流倉庫リート)の時価総額のほぼ倍の大きさであり、「全米最大の不動産会社」と検索すると同社がヒットする。
アメリカンタワーが保有するのはアンテナを取り付けるための「柱」なり「鉄塔」、ビル等の屋上に取り付けられた「棒」などが中心だ。これらは「不動産」とは言い難いが、同社は「リート(不動産投資信託)」なので「不動産会社」に括られることがあるのだろう。
なおアメリカでは日本とは異なり、「リート」というのは税法上の規定だと考えた方がよい。日本ではリート専用の法律が用意されているが、アメリカでは「これこれの要件を満たせばリート適格とし、法人税の優遇を受ける事ができる」という形で規定されている。現在のこのような形に収まるまでには長い歴史があり、また大型の制度改正も何回かあった。
もう一つ、ややこしいことを言えば、よく考えると「不動産」に相当する英語の単語は存在しない。「リアル・エステート」が最もよく使われるが、この語は本来は「現物資産」という意味だ。財産を「動かせる物と動かせない物」、すなわち「動産」と「不動産」にまず二分するのは、大陸法由来なのだろう。
英語にも「イムーバブル・アセット(動かすことができない資産)」という単語があることはあるのだが滅多に使われず、私は今までにこれを2回しか見たことがない。いかにもイギリスがフランスの統治を受けていた時代に持ち込まれたという感じがする表現だ。
週刊住宅 2020年3月9日号掲載