世界で大型不動産等を買いあさっていたHNA(海航集団)が本格的に資金繰りに行き詰った

 HNA(海航集団)の資金繰りが新型肺炎の影響で行き詰まり、当局の関連する部局のいくつかが同社が倒産しないように乗り出したようだ。ロイターでは2020年2月29日、ブルームバーグでは同3月1日の配信だ。

 

 2017年初頭まで、中国企業は世界中で不動産や各種の企業や株を買いまくっていた。代表格がHNA(海航集団)、安邦保険、大連万達、復星集団の4社だ。

 この4社は2017年6月に金融当局からノックアウト・パンチを食らった。正確な表現ではないが、銀行に対し「これら4社(プラスおまけでもう1社あった)へは金を貸すな」と名指しにされたのだ。

 これは中国版のバブルつぶしだ。中国当局は日本の金融政策を非常によく勉強していて、日本のバブル当時の大蔵省等の施策がいかに拙劣で、その結果、日本経済がいかに長期間苦しむことになったかをよく知っている。

 

 当時の日本のバブルつぶしの一連の諸施策のひとつに「総量規制」というのがあった。当局はどの会社と名指しすることはせず、銀行各行に対して不動産業(+建設業+ノンバンク)への融資総額を前年比で増やすなとした。これは総量規制(三業規制)とよばれた。どの会社をつぶすかは各銀行の選択とされたわけだ。

 これが大混乱を招いた。銀行各行の融資は融資先各社に対して重層的に錯綜しており、どこの会社をつぶすかという秩序立った合意形成は不可能で、これにより経済界は大変な混乱に陥いってしまった。

 

 「総量規制政策」の惨状からの教訓だろう、前述のように中国の当局は具体的な会社4社を名指しして、これらは場合によってはつぶすと宣言同様のことをしたわけだ。

 

 4社の中では安邦保険の会社内容がいちばんひどく、真っ先につぶすことになった。同社は「保険」という名称で実際は「資産運用商品」を売っていた。したがって満期払い戻しをめぐって銀行類似の取り付け騒ぎが起こりかねなかった。同社の経営者は詐欺罪で刑務所行きとなり、政府は同社を直轄にして資産をばらし、残りは新設した受け皿会社である「大家保険」に移した。先日、販売開始になったマンハッタンのウォルドルフ・アストリアの超高級マンション部分も正確にはこの大家保険が販売元となっているはずだ。

 

 今回の記事のHNAは、会社内容が4社の中で安邦保険の次に悪かった。同社はもともと海南省の小さな地方航空会社だったのだが、ほかの地方航空会社多数を買収しているうちに舞い上がってしまい、海外でも派手に買収をはじめた。買った資産は400-500億$(4.4-5.5兆円)で、ドイツ銀行株とかホテルのヒルトン株とかも含めてまるで日本の往年のバブルの紳士とそっくりである。

 昨年の暮れ、HNAは新型肺炎問題がまだ勃発する前にすでに資金難となり「給料が払えない」と言い始めていた。そして今回、新型肺炎問題でキャッシュが枯渇し、当局の関連数部局が乗り込んだわけだ。国内便がどれほど飛んでいないのかは分からないが、中国関係の国際便は80%がキャンセルされている。これでは金が回るわけがない。

 

 ちなみにほかの会社だが、大連万達は当局からの厳しい態度におびえて、直ちにテーマパーク13ヶ所を不動産会社に売却した。超目玉プロジェクトの東方影都という青島に作った巨大映画スタジオも所有権を売却した。すばやい対応で一息ついたのだが、一時は中国最大の富豪だった同社の王健林氏はもう超富豪ではなくなった。

 もう一社の復星集団はたいした資産処分もしていないのだが、また海外で企業買収をし始めている。香港上場の系列会社があるために外貨の入手が可能だということもあるだろうが、そもそも同社は当局が恐れたほどは経営内容(投資内容)が悪くなかったのかも知れない。

 

 日本の教訓の勉強成果もあり、中国のバブルのつぶれ方は当面は日本よりはるかにマシだった。しかしその後を見ていると、中国は問題を先送りにしただけのようにも見える。昨今の金融の話を見聞きすると芳しくない。

 日本でバブルがつぶれたのは私は1991年だと考えているのだがそれから30年弱、中国も結局、3年とか5年ではうまくいかず、バブル処理にはやはり10年以上はかかるのかもしれない。

 

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