アメリカで1億$以上で売買された住宅

 ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アメリカで1億$(109億円)を超す価格で取引された住宅等は過去に約20件あるという。初めて1億$を超えた取引が出たのは2007年で、2019年に入ってからは4件、発生している。

 

 ここで言う「住宅等」に含まれるのは一戸建て住宅、一戸建て別荘、マンション、ランチだ。「ランチ」というのは大牧場のことで、母屋に本人や家族が実際に住む場合と別荘的に使われる場合がある。本来の意味からはずれ、牧場が付帯しない場合もある。

 

 本題に入る前に二点指摘しておきたい。

 

 まずアメリカ人は記録を取ることについてマメである。日本人とは異なる分野でマメなわけだ。そのせいか、「ランキング」を作るのも好きである。

 

 またアメリカでは登記申請に添付される売買契約書が閲覧可能なので、売買価格や物件概要が分かる。買主が身元を隠す場合があるが、巨額取引ではたいていの場合、ばれる。

 

 アメリカでの史上最高額の取引はテキサスのランチで、2016年に5億$(545億円)で売買された。広さは53.5万エーカー(2170平方キロ)と東京都の面積とほぼ同じだ。ウォルマートの創業家一族の女性と結婚した実業家が買主で、彼はこの取引の2年前にも別のランチを1億$で買っている。

 

 2番目に高額だったのは2019年年初に明らかになったマンハッタンの4層連結のマンションの2.38億$(259億円)だ。億万長者通りと呼ばれる通りに面して建ち、セントラルパークに至近である。買ったのはファンドのシタデルのケン・グリフィン氏で同氏は世界中で超豪邸を買い漁っており、その総額は7億$(763億円)と言われる。

 

 3番目に高額だったのはリスティングされずに2014年に成約した物件で、ニューヨーク州に所在する。別荘向けで、建物付き18エーカー(2.2万坪)の土地が1.37億$(149億円)だ。

 

 4番目にまたケン・グリフィン氏が出てくる。フロリダの海辺の隣接しあう4区画・合計8エーカー(9790坪)の土地を2012年に1.3億$(142億円)弱で購入した。同氏が世界中で超高額住宅を買っている目的ははっきりしないが、この物件は投資用のようだ。

 

 以下、これが続くわけだが、我々にとって興味深い物件に絞って取り上げる。

 

 6位はソフトバンクの孫CEOが2012年に1.175億$(128億円)でカリフォルニアで買った2005年築の9,000sqft(250坪)の物件で、孫氏は購入後に大幅にリノベしている。

 

 9位は先のマンハッタンの億万長者通り沿いの別のマンションのデュープレクス(二層連結)で、価格は1.0047億$(110億円)だ。2014年に成約し、買主はコンピュータのデルの創業者だった。

 

 10位はプレイボーイ誌の創刊者が売却したロサンジェルスの一戸建てで、2016年に1億$(109億円)で成約した。派手なパーティーがよく開かれ、「プレイボーイ・マンション(戸建て超豪邸)」と呼ばれていた物件だ。

 

 11位はロサンジェルスの超高額建売で、2016年に1億$(109億円)で成約した。同市周辺のビバリーヒルズやベルエア等は超高額建売の密集地帯である。

 

 13位はロサンジェルス近郊のマリブで2018年に1.1億$(120億円)で成約した物件で売主がハードロックカフェ(ハンバーガー中心のレストラン)の創業者だった。

 

 14位はロサンジェルス近郊のホルムビー・ヒルズで2019年に1.1975億$(131億円)で成約したフランスの城を模した住宅だ。この地区は区画が大きく、総額が高い物件が良く出る。

 

 番外はハワイのカウアイ島で2014年にフェイスブックのザッカーバーグ氏が1.3億$(142億円)で買った土地、700エーカー(85.7万坪)だ。

 

 上記の中にはパッケージと見られる物があり、いくつかの価格は参考程度である。

 

 このクラスの物件では売却希望価格から大きく下落して成約となるケースも多い。フロリダの1.59億$(173億円)の物件は4250万$(46億円)で成約、アスペンの1.35億$(142億円)の物件は4100万$(47億円)で成約といった具合だ。

 

 購入者で目立つのは、上場して金満となったIT企業の経営者と金融業関係者、特にファンドの経営者で、ニューヨークやカリフォルニア、フロリダといった海に近いエリアの物件が多いことも目立つ。

 

 これらの巨額取引は話題になり耳目を引きやすいが、実際は非常に小さなマーケットに過ぎず高い値付けをすると全く動かないことになる。

 

($=109円 2019年11月29日近辺のレート)

 

                      ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

 

三井不動産リアルティ(株)発行 Realty Press 47号 2020年1月