「黄金ビザの発給者」

 要件を満たした投資により永住権や長期滞在ビザを与える制度がある国は、世界に数十カ国ある。このようなビザは「黄金ビザ」とか「投資移民ビザ」と呼ばれている。

 

 一番人気はアメリカだ。「失業率が高い地区で10人以上の雇用を生む事業に50万$(5500万円)以上を投資」するとEB-1という資格のグリーンカードが取得できる。1990年の不況時に導入された制度だ。

 

 不動産開発はこの制度と非常に親和性があり、一部のデベはこれを用いて積極的に海外からの資金を調達、特に中国人勢は5年前にはEB-1の取得者の85%を占めるに至った。アメリカのデベと中国の業者が組んで「不動産開発とビザ取得」をワンセットにして中国本土で販売される例まで出てしまい、アメリカの出入国管理当局は顔をしかめた。今は中国人は30%に減り、インド人やベトナム人が増えている。

 

 中国人投資家は主目的が「ビザ取得」であるため金銭的な配当の要求水準はきわめて低い。一時は利回り0.25%という時もあったが今は2%程度に上昇している。それでもデベとしては大変魅力的な低利の資金調達であり、多くの不動産開発でこれが用いられている。

 

 有名な開発にはマンハッタンのワールドトレード・センターやハドソンヤードがある。後者を開発したデベのリレイティッドは推定600億円以上をEB-1で調達した。前述の「失業率が高い地区」という要件には抜け穴があって、ハドソンヤードの場合は「鉄道ヤード(車両基地)」を失業率算出の際のエリアに含めた模様だ。

 

 ヨーロッパの黄金ビザの中で最も人気なのはポルトガルで、ユーロ国債危機に陥った2012年に導入された。最低50万€(6100万円)以上の不動産投資により取得でき、EU内の移動もほぼ自由になる。不動産が相対的に安い国であることからも人気化した。同国への7年間の海外勢の不動産投資は累計43億€(5200億円)となった。

 

 ポルトガルはこの資金を主にリスボンの石畳や丘の上の宮殿の修復に使い、旧市街地の中世的な雰囲気を美しく復活させた。これが人気となって観光客が多く来るようになったわけだが、絵に描いたような成功である。

 

 その副作用としてリスボンが悩んでいるのが住宅価格の上昇だ。中心部では年10%以上の上昇が続いている。

 

 ギリシャにも黄金ビザ制度があり、投資額のハードルは25万$(3000万円)と低い。アテネの不動産市場はながらく死んだも同然だったのだが昨年は上昇、これも黄金ビザによる外国人からの投資の恩恵とされている。

 

週刊住宅 2019年12月9日号掲載