「メイシーズ」

 メイシーズは売上高でアメリカ最大のデパートだ。フルラインの店舗数は600店弱、何回もの買収や合併を重ねて来た。最近は新規出店の話より不採算店の閉店の話の方が多い。

 

 同社の場合、モールへの出店が多いので、不動産業界への影響は大きい。モールにおける集客の目玉としての機能は今は昔ほどではないのだが、それでもメイシーズに撤退されるとそのモールへの客足ははっきりと落ちる。

 

 アメリカの各種の小売のうちで最も苦しい業態が「デパート」だ。昨年はシアーズが、今年はバーニーズ・ニューヨークが倒産、中小のそれは数え切れない。ロード&テイラーもフィフス・アベニューの旗艦店を閉鎖した

 

 デパートの苦戦の最大の原因はオンライン通販の拡大で、最大手のアマゾンに加えて近年は高級衣服に特化したサイトなども伸びており、これらはもろにデパートとバッティングする。そもそも消費者が実店舗に行かなくなっており、どのようにしてモールや店舗に客を呼び寄せるかは、小売店の共通の課題だ。

 

 そのような中で、格安店が伸びているのもつらい。中にはデパートで売っていた時の価格の1割とか2割という価格でその商品を販売している店もある。デパートから売れ残りとして返品された商品の倉庫代を惜しむ業者からタダ同然で仕入れているので、このような価格での販売が可能なのだ。

 

 メイシーズもいくつかの手を打っている。格安店は勿論、店内のポップアップストアでブランドを定期的に入れ替えてストーリー性を提示した売り方を試みたりしている。

 

 11月の感謝祭の翌日であるブラックフライデーから始まる(フライイングも目立つようになった)クリスマス商戦は一年で最大のかき入れ時だ。去年は12月中旬の時点でメイシーズも含め出足は好調と報告された。やっと長い冬にも終わりが来たかと安堵したのもつかのも、シーズンを締めてみるとメイシーズは既存店比で1.1%しか伸びていなかった。

 

 小売各社は9月には今年のクリスマス商戦のための仕入れ準備に入った。支払い能力に疑問が持たれて、納入業者からキャッシュ・オン・デリバリー(納入時の現金決済)まで要求されているような小売会社もある中、メイシーズはそこまでの苦労はしていない。クリスマス商戦の速報は12月下旬、期間を通しての結果は1月の中旬に発表される。

 

 不動産業界からメイシーズについて持たれている全く別の興味は、マンハッタンのヘラルド・スクエアにある同社の旗艦店の建て替え計画だ。高さ244m、床面積120万sqft(3.4万坪)の大型ビル計画なのだが、詳細はまだ明らかにされていない。

 

週刊住宅 2019年10月28日号掲載

                         ジャパン・トランスナショナル 坪田 清