ソフトバンクは三菱地所のように恥をしのぶべき

 WeWorkとソフトバンクのビジョンファンドについて、どこで話がおかしくなってしまったのか、想像してみた。

 

 一つ目の誤算は、孫CEOがサウジのムハンマド王子に新ファンドに出資してくれと頼んだ時、満額は出さないだろうと思って多めに450億$(4.8兆円)と言ってみたら、満額出すと・・。アブダビもそれに乗って150億$(1.6兆円)出すと・・。

 この段階で、孫氏のビジョンファンドは想定外の超巨額さ(11兆円)が実現してしまった?

 

 二つ目の誤算は、WeWorkのニューマン元CEOが孫氏に出資してほしいと頼んだ時も、これも多めに100億$(1.1兆円)と言ってみたら、満額出すと・・。

 これでWeWorkは想定外の巨額資金でフォアグラのようになってしまった?

 

 非上場のIT会社株の市場規模など所詮は大したことはないわけで、そこへビジョンファンドの11兆円などという巨額をぶち込んだので、バブル的な値上がりをしてしまった。

 ソフトバンクは初期の投資が非常に儲かったので、後に一社当たりの投資額を大きくした。するとますます非上場IT会社株相場は値上がりした。

 このバブルがはじけてぽしゃったのがWeWorkだ。

 

 原油マネーをこんな小さなマーケットに持ち込んだところに無理があった。前にこのブログでも書いたが、孫CEOは軟禁覚悟でサウジに行ってムハンマド皇太子に会ってくるべきだ。

 もし「クーポンの7%と元本に多少の色を付けて返してくれればおしまいでいい」と言ってくれれば、ソフトバンクはこの「自己プロジュースしたバブル」から手じまいできる。

 

 思い出されるのは日本のバブルの末期に三菱地所がニューヨークで行った不動産投資の失敗だ。概算1000億円を投資して、2000億円の損失を出した。

 

 今でも海外メディアでは「三菱の愚行(folly)」としてよく引き合いに出される。三菱地所の三菱グループにおける地位は高くなく、「三菱の愚行」と書かれるたびに三菱グループ内では三菱地所より格上の三菱商事や三菱重工は苦い顔をしていたはずだ。たぶん三菱地所は家賃のおまけを強いられた?

 

 三菱地所は買収した不動産子会社「ロックフェラー・グループ」を破産させることとした。「破産プラン」に驚いた本家本元のロックフェラー財閥の総帥、デビッド・ロックフェラー氏は商用機で来日(プライベートジェットでは目立つから)、三菱地所のトップとの面会に向かった。

 しかし昔の丸ビルの入り口の階段でころび、すねにひびが入ってしまった。

 デビッド・ロックフェラー氏は応急措置を受けて車いすに乗って三菱地所トップとの会談に臨んだ。

 彼は「ロックフェラーの名を冠した会社の破産」という不名誉な事態を避けるべくなんらかの話をしたかったはずなのだが、痛みがひどくなったのだろう、ろくな話が出来なかったようだ。三菱地所はこの会社を破産させた。それが2000億円の損失である。

 会談後、デビッド・ロックフェラー氏は商用機で帰れる状態ではなく、旧知のソニーの盛田昭夫氏に頼み同氏のプライベートジェットで帰国した。

 

 三菱地所の名誉のために書けば、破産させた「ロックフェラー・グループ」は大型ビル2本を持ちこたえたようだ。これはすごい。2000億円の損失のうちかなりな部分は取り返している。体力がある会社だからできたことだ。

 

 WeWorkで従業員を5000人リストラすると人件費が約400億円浮くなどというのは小学生の計算だ。失う物も大きい。電話ブースのホルムアルデヒドの問題がどうなるのかは分からないが、今までの話によりWeWorkからはもうブランド力も魔法も消えている。今後、個人会員がどんどん退会し、法人会員はWeWorkをはずしてビルオーナーと直接賃貸するようになるだろう。

 

 今回、5000億円を追加投入したところで、きっとそう長くはもたない。一年か二年でまた資金ショートが起きて、ひと騒ぎがおこるだろう。

 

 ソフトバンクも十分に体力があるのだから三菱地所にならい、WeWorkへの関与はいい加減なところでやめた方がいい。もうすでに世界中の笑いものになっているのだから、きっちりと恥をかいてきっちりとすっきりした方がいいのだ。

 このままではいつまでも「ソフトバンク」「ソフトバンク」「馬鹿だ」「馬鹿だ」と言われ続け、レピュテーション・リスクによるダメージが手に負えなくなってしまうと危惧する次第だ。