「クレイジーな建売業者たち」

 住宅(別荘を含む)が一戸、数十億円という価格で取引されるのは、アメリカでも限られている。ニューヨーク、ハンプトン、フロリダ、ロサンジェルスがほとんどだ。「ハンプトン」というのはニューヨークから車で東に約2時間の別荘地である。

 

 この中で、「一戸・数十億円」という価格の超ラグジュアリー建売が集中しているのはロサンジェルスやその近郊のビバリーヒルズ、ベルエア、マリブといった地区である。

 

 最近だと今年8月にロサンジェルスで3300万$(35億円)の物件がリスティング、同月にマリブで1億$(110億円)の物件が売り出し間近とされ、7月にはベルエアで7500万$(81億円)の物件が成約した。マリブでは6月に4999.5万$(53億円)の物件が売り出されている。2月にはベルエアで4800万$(51億円)、昨年12月にはロサンジェルスで5600万$(60億円)の建売が出た。

 

 これらの物件の中には何らかの特徴を備えていることも多い。海から100m以上上がった断崖の上とか、キッチンが2つあり一つはパーティの時に呼ぶプロ用とか、建物を三方向に伸びたプロペラ状にして眺望を最大限に生かしたといった具合である。

 

 これらの超ラグジュアリー建売りを手掛けているのは世界的には無名の業者ばかりだが、何よりも驚かされるのはこのような価格帯の「建売り」が売れているのだろうという事だろう。値引き等があったとしても、儲かっているからこそ、これだけ供給されている。

 

 ある業者によれば、投資利益率として50%以上を狙うのだが、実際は30%程度になるとのことだ。土地代+建築費その他で40億円かかり、売値は60億円と設定して市場に出して50%の利益(20億円)を狙うのだが、実際の利益は12億というわけだ。差額の「8億円」は値引きなり、家具調度品のサービスといったインセンティブのために使われる。彼自身、これは「クレイジーなビジネスだ」としている。

 

 ロサンジェルス界隈で2000万$(21億円)以上の値札がついている建売住宅はリスティングされているもので35件、リスティングされていないものを含めると50件とされる。明らかに供給過剰であり、業者の販売希望価格通りで売れることはまずないが、業者も値引きを前提にあらかじめ高めの値段を付けている場合が多い。

 

 ここしばらく市場の注目を集め続けている物件は建築工事中の物件で、販売予想価格は5億$(540億円)という呼び声がかかっている。アメリカにおける今までの最高価格の住宅取引は2.38億$(260億円)なので、これを優に超す可能性がある。

 

                                                  ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

週刊住宅 2019年9月30日号掲載