「大連万達」

 大連万達は「大連」を冠しているが、これは創業者の王健林氏が人民解放軍の大連の部隊で後方担当だった時にこの地で不動産業を始めたためだ。大連は同社の創業の地ではあるが今はビジネス上の本拠地ではない。本社は北京にある。

 

 元々の主力ビジネスは「万達プラザ」というSCとホテルやマンションを組み合わせた大型の複合開発で、ピーク時には中国全土で約200ヶ所を展開していた。

 

 同社の名を一躍有名にしたのは2013年に行ったアメリカのシネコン第二位・AMCの巨額買収で、後にアメリカの全スクリーンの13%を保有するシネコン首位の会社となった。

 

 ここから同社の海外での「爆買い」が始まる。不動産に限ってもロンドン、シドニー、シカゴ、ビバリーヒルズ等で竣工済みオフィス、ホテル用地等を買いまくった。

 高級ヨットのメーカーやスポーツマーケティング会社、トライアスロンを開催する会社も買収した。

 

 映画関連ではハリウッドの映画スタジオ大手のレジェンダリーも巨額買収した。王健林氏は映画への思い入れが深く、500億元(7600億円)をかけて青島に「東方影都」という世界最大の映画施設を作った。52のスタジオがあり、全体でサッカー場200面分という広さだ。

 

 同社の運命が暗転したのは2017年6月である。当時、大連万達と安邦保険、HNA(海航集団)、復星は巨額の買収を続けていた。中国の当局は金融システムの安定性に問題が起こる可能性を懸念、これら4社に対して買収にストップをかけたのだった。

 

 最も厳しい処置が取られたのは安邦保険、次いでHNA、大連万達である。

 

 大連万達は子会社の大連万達商業地産の香港上場とその廃止で無駄に数百億円の外貨を流出させていた。これは中国の当局を非常に怒らせていたはずだ。当時、中国は急激な外貨準備の減少に青ざめていたからだ。

 当局のあまりに厳しい態度に、大連万達は大慌てで国内の13のテーマパークやその予定地、76のホテルを631.8億元(9500億円)でまとめ売りした。看板プロジェクトだった東方影都も所有権を売却、管理・運営のみを行う形となった。

 

 大連万達は海外の不動産は若干時間をかけつつ順繰りに売却している。スポーツマーケティングの会社とトライアスロンの会社は一つの会社の傘下とし、IPOにより売り抜ける。

当局により強いられた「爆売り」もかなり収まりつつある。

 

                                            ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

週刊住宅 2019年9月16日号掲載