「安邦保険」

 中国の安邦保険は2014年にニューヨークのウォルドルフ・アストリアを19.5億$(2100億円)で購入、これは今でも単体のホテル取引としては世界で史上最高額だ。続けてラグジュリー・ホテル15棟を55億$(5900億円)でバルク買い、後に同社の買収資産総額は300億$(3.2兆円)**以上と言われるようになった。

 

 同社への風向きが変わったのはスターウッドへのビッド合戦からだ。合戦の終盤において、安邦保険はそれまでの最高額で出していたオファーを、突然撤回した。中国の外為当局がこの買収に必要なドルを出さないとしたためと噂された。

 

 それがとんでもなく厳しい話であることは、2017年の6月になって分かった。金融規制当局が、それまで海外で非常に活発に買収を重ねてきた安邦保険、HNA(海航集団)、大連万達、復星国際の4社について、銀行各行は警戒をするように警告を出したのだ。

 

 この警告は日本で言えばバブル潰しの際に出された「融資の総量規制」に相当する。当時、日本の大蔵省は個別企業名はあげなかったが、中国当局は具体的な企業を名指しした。

これら4社の中で最も厳しく当たられたのが安邦保険である。同社は多額の借り入れのほかに短期高利回りの資産運用商品で資金を集めており、これらが崩れると金融システム全般にひびが入る。当局は同社を公的管理下に置いて債権者や出資者の不安を鎮め、同社の呉会長を詐欺等の罪で起訴した(後に禁固18年の判決が下りた)。同氏の妻は鄧小平の孫娘なのだが、これには何の効果もなかった。

 

 次なる問題は安邦保険の整理、具体的には資産売却だ。特に注目を集めているのが冒頭にあげたウォルドルフ・アストリアと、ラグジュアリーホテル15棟である。

 

 話が先行しているのは15棟のホテルの方で、1棟ずつ丁寧に売却する方法もあったはずだが、まとめ売りされる。買主の候補としてはブラックストーンやブルックフィールド他の名前が挙がっている。価格は安邦保険の買収価格とほとんど変わらない程度となる見込みだ。この件については本稿が皆様の目に留まるころには進展している可能性がある。

 

 ウォルドルフ・アストリアの方は、大部分の客室をスタジオタイプから5寝室の超高額マンションにコンバージョンし、残りを以前よりはるかに小規模なホテルとすべく、ニューヨーク市と話がついた。竣工予定は2021年で、マンション部分は年内に販売を開始する。ただし運が悪いことに、ニューヨークの超高額マンション市場は、今は非常に調子が悪い。

 

                         ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

 

週刊住宅 2019年7月29日号掲載

 

**「3000億$(32兆円)」の書き間違いでした。訂正します。