「新鴻基地産」

 香港最大のデベである新鴻基地産の時価総額は約5兆円だが、これは三井不動産や三菱地所の3兆円弱よりも一回り大きい。主力はマンションとオフィスビルだ。

 

 同社のビルの中で最も有名なのは、ICC(環球貿易広場)という118階建てのビルだ。竣工は2010年で、半島側である九龍地区の西側の海沿いに建築された。大変見栄えが良いビルで、これを湾から見上げる写真は香港を代表する景観として多く使われる。

 

 ちなみにこのビル以前に香港を代表するビルとして多く使われていたのは、未来的な外観であるHSBCビルだ。

 

 香港では新鴻基地産が建てた各所のビルやマンションが近景でも遠望でも、とても目立つ。同社が「香港のスカイラインを作った」と言われる所以である。

 

 昔から香港の住宅市場はアップダウンが激しかったのだが、近年それが加速している。中国の経済が大きくなり、大陸中国のマネーが流入、香港はこれに振り回されている面がある。住宅市場は昨年の夏以降、下落局面に入り本格的な調整に入るかと一時は思われていたのだが、今年年初からは反発上昇に転じた。米中貿易戦争や中国の景気鈍化といったネガティブな話が多い中で、直近では中古価格指数がとうとう史上最高値になっている。

 

 信じがたい話だが、これは現実なのである。世界で最も住宅価格が高いのはモナコだが、香港はこれに次いで世界第二位という高さなのだ。そのような市場で新鴻基地産は今年も多分、トップ・デベとなるだろう。

 

 新鴻基地産の今年に入ってからの最大の話題というと、同社の元副社長、トーマス郭氏が3年の獄中生活から釈放されたことだ。同社は創業者が1990年に急死した後に3兄弟が共同で経営していたが、長男と次男・三男の間で仲たがいの状態に陥った。その後、同社トップによる香港政庁ナンバー2への巨額の便宜供与問題等が露見、これがコンサルタント料ではなく「賄賂」だと認定される事件が起きた。本件で次男のトーマス郭氏が懲役5年とされ服役していたところ、このたび釈放となったわけだ。三男のレイモンド郭氏は逮捕および起訴はされたが無罪となっていた。

 

 兄弟間で孤立していた長男のウォルター郭氏はその後、2014年に弟たちと和解したとされるが、昨年、心臓まひにより68才で死去した。彼ら三兄弟の資産額は5年前時点でいずれも1兆円と言われていた。

                                          ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

週刊住宅 2019年7月1日号掲載