「全米リアルター協会」

 その名の通りアメリカのリアルター(不動産仲介業者)が加盟する業界団体だ。会員数は130万人で会員に対する自主規制も行っている。同協会に加盟していない仲介業者はもぐり扱いされると聞く。ちなみに日本で「宅建業に従事している宅地建物取引士」の人数は約31.3万人である。

 

 全米リアルター協会は略称のナール(NAR)の方が通りが良い。同協会の政治献金の額は全米商工会議所に次ぐ第二位という巨額さだ。先般のトランプ税制改革で「オポチュニティ・ゾーン」という制度が創設され、一定の地域における不動産開発の利益は繰り延べを受ける事になった(現在、各市において細目が固まりつつある)が、これなどはナールのロビーイングの力を示すものであろう。

 

 オポチュニティ・ゾーンは不動産会社にとり非常に有利な税制改正であり、今後、大きな脚光を浴びるだろう。

 

 ナールは月に一度、必ず注目をされる。それは全国のリアルターから当月の売買状況の報告を受け、これを集計して「既存住宅販売(件数)」という統計を発表しているからだ。日本流に言うなら「中古住宅売買の残金決済・引き渡し件数」である。

 

 この「既存住宅販売」はアメリカにあるおびただしい数の経済統計の中でも非常に重要視される。景気の局面において、速報的な統計の中で「雇用統計」に次いで重要視されることがあるほどだ。

 

 このような基幹的統計を民間団体が負っているというのは興味深い。なおアメリカでは「新築住宅販売(件数)」は商務省が把握している。全住宅流通件数は、これらを足し算することになる。

 

 「既存住宅販売」は証券市場で言えば出来高だ。日経平均なりTopixにあたる「メディアン価格」もナールは公表している。しかし価格水準の方は以前ご紹介した「S&Pケースシラー価格指数」の方で議論されることが多くなった。

 

 なおよく知られているように、アメリカでは新築住宅よりも中古住宅の方がはるかにマーケットとして大きい。今年春の数字で見ると、中古住宅が概ね80%、戸建て新築住宅と新築集合住宅が各10%という感じだ。近年はマンションの割合が増えている。流通戸数は足し算をすると中古・新築の全体で年650万戸弱程度だったが、この数字は大きくぶれる。

 

                                                ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

週刊住宅 2019年6月17日号掲載