「GIC」 

 GICは日本では旧称を直訳した「シンガポール政府投資公社」の方も今も使われることがある。同国に二つあるSWF(政府系ファンドの一種)の一つで、与えられた任務は貿易黒字により累積した外貨準備の、「20年間」を見越した運用だとされる。

 

 シンガポール政府はシンガポールドルがヘッジファンドのターゲットになることをおそれるという理由で、GICの財務状態について公開していない。公開すれば外貨準備の一端が明らかになってしまうと考えているからだ。

 

 しかし、伝えられるところによればGICの総資産は3900億$(43兆円)で世界のSWF中、第5位だ。ポートフォリオの34%がアメリカの資産向けで、日本向けは12%とユーロ圏向けの12%と同率2位とされている。

 

 GICは日本で積極的に不動産投資をしてきた。第一号投資は1990年代末期に国鉄清算事業団が入札にかけた土地を三井不動産と組んで取得、今の汐留シティセンターを建てた。以降の大型投資には品川シーサイドタウン、福岡のホークスタウン、恵比寿のウエスティン東京等がある。

 

 比較的最近の日本での投資としては八重洲のパシフィック・センチュリー・プラザのオフィス部分の購入や再生エネルギーの会社向けの投資がある。

 

 GICの日本以外での不動産投資でここ一、二年の間で特に目立つのが「学生寮」だ。アメリカ、ドイツ、イギリス、オーストラリアで投資したことが確認されている。学生寮といっても10棟以上をポートフォリオとしてまとめ売買される場合が多く、一回のディール額が13億$(1400億円)というケースもある。

 

 ちなみに学生寮は国際的には今、人気の投資対象でカナダ勢やドバイ勢も大口で学生寮を買っているのだが、これらの不動産としての魅力は2つある。

 

 一つは、エマージング諸国がリッチになってきて、富裕層の間に子弟を欧米の大学に留学させる例が増えている点、もう一つは景気変動の波を受けにくい手堅い投資である点だ。

 

 GICは最近、シチズンMという新興のホテル会社にも大口出資した。同ホテルは「部屋は小さく、共用部はゆったりと贅沢に」とい新手のコンセプトを武器に拡大している。シチズンMのホテルでは、宿泊者が部屋に閉じこもらずに、見知らぬ同宿者や外部からの来訪者と積極的に交わるような仕掛けが随所に施している。

 

 GICはこのようなホテルが今後伸びると評価したわけだ。

 

                      ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

週刊住宅 2019年6月3日号掲載