ニューヨーク本拠の不動産デベ、ボルナドはここ一年強の間、非常に多くの話題を振りまいた。直近の話題は、同社が分譲したマンションで一戸2.38億$(270億円)という超巨額売買が成立したことだ。セントラルパークの南端に接する通り沿いの物件である。
この取引はニューヨークにおける住宅取引の従前の記録、1億47万$(113億円)も、別荘地ハンプトンであったアメリカ全体での住宅取引の最高記録、1億3700万$(153億円)も、大幅に塗り替えた。
マンハッタンの666フィフスというビルに関連しても、ボルナドはキーとなった。このビルはトランプ大統領の娘婿(イバンカの旦那)で大統領上級顧問であるクシュナー氏の一族が経営している会社が所有している。ただでさえ難しい再開発案件なのだが、加えてトランプ政権の利益相反問題の点からもこのビルをどうするか、メディアから大きく注目された。クシュナー社はカタールや安邦保険と交渉していると報道されたことがあるのだ。
ボルナドはこのビルで商業フロアとオフィス部分の持ち分を持っていたのだが、複雑な交渉の結果、カナダのブルックフィールドが事業に参加して主導権を握り、このビルの再開発が進められる見込みとなっている。
おもちゃのトイザらスの倒産では、同社が抱える財務面での問題でボルナドも注目を浴びた。トイザらスの倒産の主因はアマゾンを始めとするオンライン通販なり、ウォルマートやターゲットが仕掛けた価格競争なのだが、多額の借金を負い長年にわたり前向きの投資に資金を回せなかったことも蹉跌の原因だ。
この多額の借金の原因は2006年にKKRとベインとボルナドが共同でトイザらスに仕掛けた66億$(7400億円)のLBOである。ボルナドの狙いは店舗用不動産だったのだろうが、トイザらスの収益力を無視した無理なLBOが裏目に出てしまった。
前向きの大きな話題には、一日の乗り換え客が65万人という巨大ターミナル駅、ペンステーションの周辺開発の段取りが着々と進んでいることがある。ボルナドはこの駅周辺の大地主なのだ。まず事業費16億$(1800億円)の再開発の参画条件を決めたが、今後も再開発が続くことは間違いない。
ワシントン周辺は市況が軟調だとして保有するビル群を切り離し、地元のJBGスミスと合併させていたのだが、これは「しまった」と思ったはずだ。これらはもろにアマゾンが選んだ北バージニアでの第二本社用にぴたりのビル群だったからだ。
ジャパン・トランスナショナル 坪田 清
週刊住宅 2019年4月15日号掲載