「ノルウェー政府年金基金グローバル」

 イギリスとノルウェーに挟まれた海域にある「北海油田」から取れる石油のほとんどを、ノルウェーは輸出に回してきた。国内で必要なエネルギーは水力発電で十分にまかなうことができたからだ。

 

 ノルウェーはこの油田がいずれ枯渇すると見越し、得た石油売却代金を別段預金として蓄積してきた。それが現在の「政府年金基金グローバル」だ。毎年の新たな組み入れと好調な資金運用があいまって、運用資産額は2017年の9月に1兆ドル(111兆円)の大台を越した。

 

 「政府年金基金グローバル」はファンド、すなわち「器」であり、実際の運用はノルウェーの中央銀行の一部門、ノルジバンク・インベストメント・マネジメント(NBIM)が受託している。このあたりは同じ話がいくつもの異なる「主語」で語られることがあり注意を要する。

 

 同ファンドは2017年12月に表参道の商業ビル5本を東急不動産と共同投資した。不動産投資としてはこれが日本初見参だ。額は927.5億円、ノルウェー側の出資比率は70%だった。世界ではアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、スイスにある9都市で投資していた。日本についても引き続き投資意欲を持っているが、具体的な話はまだなようだ。

 

 ノルウェーのこのファンドは「ソブリン・ウエルス・ファンド」と呼ばれる類型のファンドの一つである。この言葉は略してSWFとされるが日本では定訳がなく、大雑把に「政府系ファンド」とされてしまうことが多い。この手のファンドにこのように非常にわかりにくい名前がついてしまったのは命名したのが学者さんだからで、元々は学術用語なのである。

 

 SWFの代表的なところには石油等の天然資源を裏付けにした「アブダビ投資庁」「クエート投資庁」「パブリック投資ファンド(サウジ)」等や、貿易黒字を裏付けにした「中国投資公司」「GIC(シンガポール)」「韓国投資庁」等がある。

 

 以前、本欄で紹介した「アブダビ」には、同国のSWFも含まれていた。

 

 ある団体の調査によれば世界のSWFの運用資産の合計額は2018年6月末で7.8兆ドル(866兆円)だったとしている。しかしこの団体は通常はSWFとは分類されない政府系ファンドもSWFとして括っているので、狭義に絞ればこの数字よりも小さくなるはずだ。

 

 いずれにせよその中の1兆ドル(111兆円)がノルウェーなのである。

 

                       ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

週刊住宅 2019年3月4日号掲載