「三井不動産」

 海外の投資家に最も知られている日本の不動産会社は問題なく、三井不動産である。同社はイギリスではBBC本社とその周辺の開発を順調に進め、先日第一期を竣工させた。同プロジェクトでは今のところ、マンション、オフィス、ホテル、すべてが順調だ。

 

 ニューヨークのマンハッタンで進められているアメリカ史上最大規模の民間開発、ハドソンヤードでは、その中の2本の超高層ビルについて各約90%分に投資している。1本目が先日竣工して9割が契約済みと、これもアメリカの水準としては非常に良好だ。もう1本のビルは竣工予定が2020年で、既にファンド大手のブラックロックの入居が決まっている。

 

 三井不動産は昔、オイル・メジャーのエクソンが本社としていた豪壮な超高層ビルをマンハッタンに持ち、ハワイでは名門ホテルとして人気が高いハレクラニホテルを保有する。これらの含みは相当な額に達する。

 

 アジアでも大きく展開している。マンション、ショッピングセンター、ホテルと三井不動産本体の事業ポートフォリオの半分くらいを手掛けている感じだ。アジアへの本格進出の際に、現地での事業を各事業本部が担当していたためだろう。

 

 昔、ハーバード大学のビジネススクールの学生達ご一行が日本視察に来た際、私がアテンドをした相手は「三井グループのトップは誰か」としきりに聞く。ロックフェラー・グループにおける、デビッド・ロックフェラー氏のような名前を知りたかったのだ。

 

 込み入った話をしても仕方がないので、三井グループは現在は「連邦経営」なのだが、戦前は「三井合名」というホールディング・カンパニー(持株会社)があって、その最後の社長は「(11代)三井八郎右衛門」という男爵だった、しかし日本が第二次世界大戦で負けたのに伴い彼は財産や爵位を失い戦後は幼稚園の園長先生になったと説明をしたら、興味深そうな顔をしていた。ちなみにこの「幼稚園」は三井家ゆかりのもので西麻布にある。

 

 三井銀行や三井物産、三井鉱山他、すべての三井グループの会社は三井合名にとっては子会社になるのだが、例外が2社ある。後に三井不動産となる「不動産課」と、三井農林となる「農林課」で、これらは子会社ではなく三井合名の社内の組織とされた時代が長かった。前者は都市型不動産を所管し、後者は農業・林業用の資産を所管した

 

 戦後、GHQの指示による財閥解体で三井合名は保有していた三井系各社の株式をすべて放出、社名を三井本社とした。後年、同社は役目を終え、三井不動産に吸収合併される手続きにより消滅・清算された。すなわち、三井不動産には「世界でも有数の財閥だった三井合名の血を直に引き継いだ三井の嫡流の会社」という面もあるわけだ。

 

                         ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

 

週刊住宅 2019年2月4日号掲載