アメリカのオフィスビル売買市場の先行きについて懸念すべき話が2つ出た。

 アメリカのオフィスビル売買市場の先行きについて懸念すべき話が2つ出た。一つはハドソンヤード内で新本社ビルを建築中のワーナーメディアが、竣工前にこのビルをセールス&リースバックで売ろうとしているという話、もう一つは歴史的ビルであるクライスラービルが売りに出されるという話だ。

 市場が順調な時はこのような案件はメディアに漏れる前に買主が見つかっているのが通例である。特にワーナーメディアが竣工・入居を待たずに売るのはあたかも市場が早晩崩れると予見、売り急いでいるかの様だ。但し、資金繰り等、何らかの事情がある可能性もある。

 

 ニューヨークの建設業界はアメリカでも特にユニオンが強く、このため建設コストが割高になっているとされるが、デベのリレイティッドのCEO、ロス氏はハドソンヤード内の50ハドソン(三井不動産が参画)でユニオンと衝突している。工期が遅れる可能性がある。

 

 マンハッタンで2.38億$(259億円)と、アメリカ史上最高額の住宅取引が起きた。セントラルパークの真南の79階建てマンション内の4層にまたがる24,000sqft(675坪、3837万円/坪)のペントハウス。デベはボルナドで買主はファンドのシタデルの創業者。

 今回はクロージングで、売買契約のサイン自体は2015年にされていた。

 

 シアーズの破産手続きで残る最大の問題は「会長・元CEO、最大株主にして最大額の債権者」であるランパート氏の取り扱いだ。シアーズと同氏の間で行われてきた数々の相反取引に関する疑念について、「今後はもう追求しない」と無担保債権者達が同意するかどうかが焦点になっている。ランパート氏は店舗不動産や自社ブランドを自分のファンドで買い、結果として多額の利益を上げている状態。

 なお改めて、破産手続きに必要な弁護士等の費用の巨額さも話題になっている。

 

 シアーズと競合関係にあった百貨店チェーン大手のJCペニーも破綻の淵に瀕している。往年は80$だった事もある同社株は今は1$を少し上回る程度だ。

 

 クライスラービルもその一つだが、事業地確保の為の支出を節約するために借地権として建てられた一部のオフィスビルが、地代の引き上げにより苦しんでいる。日本勢はバブルの時代に「完全所有権ビル」にこだわり、それらは当時、「ジャパンプレミアム」と揶揄されていたが、今になればこの様なこだわりにも理があった。

 

 中国経済に懸念がもたれ、「激しいハードランディング」を警戒する向きさえある。懸念されるのは当局がシャドーバンキングの引き締めをやり過ぎている事だ。銀行の新規融資自体は20%増加しているのだが、民間会社には必要な資金が回っていない。

 

 当局の政策により不調に陥っているシンガポールの住宅市場だが、大型のエン・ブロック売りがうまくいくかどうかがリトマス試験紙となりそうだ。注目されているのは「ホライズン・タワー」という1984年竣工の物件で、戸数は210戸のエン・ブロック売り。

 

          (ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清 f-ree@88.netyou.jp)