中国最大規模のデベ、深圳本拠の万科企業の2017年度の売上高は2373億元(3.9兆円)だ。三井不動産の2018年3月期の売上高、1.75兆円の2.2倍である。
同社の筆頭株主は深圳メトロという深圳市役所系の鉄道会社だ。あたかも中国でよくある「政府系企業」の一種のように見えるが、違う。中国で勃発した初の敵対的買収からの企業防衛に伴い、深圳メトロが筆頭株主になったという経緯なのだ。
その敵対的買収が表面化したのは2015年12月だ。「宝能集団」という無名の会社が万科企業の株を取得し、経営陣の交代を要求した。当然、万科企業は激しく反発した。宝能集団は株を買い進み、シェアは最終的には25%にも達した。
企業防衛のため、万科企業は地元・深圳市役所系の鉄道会社、深圳メトロに対し、宝能集団の保有株数を上回る新株を割り当てようとした。
ところがこの案は、万科企業の株式10%を保有する大株主だった華潤の賛同を得られなかった。華潤の公式的な説明は、新株の発行価格(割当価格)が安すぎるというものだった。
この騒動に万科企業のライバルでデベ大手の恒大集団が割って入り、最終的には15%を保有する。恒大集団のこの株式取得の目的は「単に利益を狙った純投資」という説や、「深圳でのプロジェクトの協力を得るため」とかいくつか想像されている。後に同社のこの投資は10億$(1130億円)もの損失となる。
事態が混迷する中、政府の保険業当局が動いた。宝能集団も恒大集団も株式買収のために保険で集めた資金を多く用いており、掛け金の違法な運用として両社を処罰対象にした。
万科企業は深圳メトロと再度交渉、同社は華潤と恒大集団が持つ万科企業株を買い取り、持ち分は29.38%となった。見返りに万科企業は深圳メトロと不動産事業で組むことにした。「万科企業の株と深圳メトロの保有地がスワップされた」わけである。
この不動産ビジネス+鉄道ビジネスという事業の組み合わせは、日本の東急電鉄をモデルにしたと説明された。
こうしてこの敵対的買収は収束した。
万科企業はこの事件が起きた当時、売上高で中国最大のデベだった。現在は首位の座をマレーシアで超巨大プロジェクトを進めている碧桂園に譲っている。万科企業は以前はマンション専業だったが、今はショッピングセンター事業へも積極的に取り組んでいる。
ジャパン・トランスナショナル 坪田 清
週刊住宅 2018年11月26日号掲載