「李嘉誠(リ・カーシン)」

 香港の実業家にして富豪、李嘉誠は1928年生まれの90才、あだ名は「超人(スーパーマン)」だ。彼の帝国は金融、小売り、エネルギー、ユーティリティ他、多岐に及び、その中でも基幹となるのは長江実業地産(CKアセット)という不動産会社である。

 

 彼は資産額が312億ドル(3.5兆円)とアジア最大の富豪であるにも関わらず、腕時計は金持ち向けのブランドとは言い難いシチズン製やセイコー製の物を身に着けて現れたりする。風貌も日本のアニメの登場人物とそっくりで、欧米のメディアも彼の事を「チャーミング」な人間だと評している。

 

 昨年11月には保有する香港第5位の高さの73階建てのビル、「ザ・センター」を402億香港ドル(5800億円)で売却し、145億香港ドル(2100億円)という巨額の利益を上げた。

 

 これは単体ビル売買としては世界史上最高額の取引であった。買ったのはペーパー会社だが、出資先を遡っていくと中国の共産党にたどり着くという珍しい会社がバックにいる。ただし共産党本体がこの売買に関与しているとは考えづらい。

 

 李嘉誠は貧困の中で育ちながらビジネスを学び、1950年代に手掛けたプラスチックの造花、「ホンコン・フラワー」が当たってその後、不動産ビジネスに進出した。

 

 今もそうだが、香港は中国本土の政治や経済の荒波をもろにかぶる。李嘉誠はその度ごとにそれをくぐり抜け、事業を一段と大きくさせてきた。

 

 彼にとって現在抱える最大の課題は、円滑な世代交代だろう。

 今年3月に長男のビクター・李を後継者として指名した。にも拘わらず、李嘉誠は未だに国際的な取引の話の際に顔を出すことがある。ちなみに、日本では兄のビクター・李よりも八重洲のパシフィック・センチュリー・プレイスを開発した弟のリチャード・李の方が知られているだろう。

 

 一般論として、中華民族は世代交代に伴う事業承継が非常に下手だ。実力者がバタッといくまで実権を手放さない例も多い。学術的な研究でも、香港、シンガポール、台湾で上場されていた家族経営の企業の「創業者退任後3年間の株価」は「退任前5年間の株価」から平均60%も下がっている。

 

 中華系の会社では、いかに世代交代に伴う混乱が大きいかが分かる数字だ。

 

                      ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

 

週刊住宅 2018年10月29日号掲載