「マリオット」

 マリオットが世界で運営するホテルの室数は127万室だ。二位のヒルトンの83万室を抑え、圧倒的な世界最大のホテル会社である。2016年に室数36万室と当時、世界第7位だったスターウッドを買収、ヒルトンから首位の座を奪った。

 

 買収の結果、マリオットが所有するブランドは30にもなった。英文ウィキペディアの分類によれば、ラグジュアリーに分類されるものだけでも「リッツ・カールトン」「セントレジス」「W」「コレクション」「JWマリオット」等、8つもある。これほどまでに増えてしまったのは、先の合併に伴う整理再編をしないままでいるからだ。

 

 マリオットが合併により一気に巨大化する道を選んだ理由はいくつか推測される。まずはオンライン・ホテル予約会社から価格主導権を奪い返すことだ。さらにエア・ビーエヌビーのバラエティに富んだサイトに(可能な範囲ではあろうが)品ぞろえで対抗する。ますますコストがかかるようになっている予約システムに関する固定費負担を薄める・・・。

 

 今年の四月、答えの一つが発表された。えらく気前が良いロイヤルティ・プログラムが発表されたのだ。「ロイヤルティ・プログラム」とはポイント付与や施設の割引・優遇利用等の制度のことだ。これにより顧客を常連客として囲い込もうという戦略である。今回の発表では「コーチ付きサーフィンのレッスン」「ヘリコプター・ツアー」等々、多様なプログラムにポイントが使える。

 

 マリオットが買収したスターウッドのロイヤルティ・プログラムは充実していて、人気があった。マリオットに買収されることにより、その気前の良さがなくなってしまうのではと懸念されていたのだ。

 

 マリオットの現在のホテル室料売上の半分以上はロイヤルティ会員からとなっている。彼らはオンライン・ホテル予約会社を通さず直にホテルへ申し込むので、マリオットとしてはこれらの予約会社への手数料が不要となる。

 

 マリオットは最近、新たな試みにもチャレンジしている。音声認識ソフトの「アレクサ」をホテルの室内に設置することを試行したり、民泊にも進出、あるいは3艘の船を用いて「リッツ・カールトン」ブランドでクルーズ船事業にも乗り出そうとしている。

 

                        ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

 

週刊住宅 2018年10月15日号掲載