アメリカの住宅市場は長期にわたって堅調だったのですが、様子がおかしくなり始めています。直近で「価格」は横ばい状態になり、「売買件数」は前月比4か月連続で下落と、減少傾向が大きいのです。
「売買件数」の方から見てみましょう。直近での売買件数下落は、ニューヨークのラグジュアリーマンションや、カリフォルニア州、ワシントン州、アリゾナ州といった西部の諸州、外人による購入等で顕著です。
アメリカの住宅販売シーズンは3-5月です。既存住宅販売(中古住宅売買件数)は3月までは好調でしたが、4月からは一転して下落しています。既存住宅販売のカウント時期が「クロージング(残金精算・引き渡し)」なので、春の住宅販売シーズンは滑り出しから不調だったわけですが、実際、業者からは来場顧客数が伸びないといった声が聞こえていました。
既存住宅販売の下落の要因として最も大きく挙げられているのが「在庫不足」です。価格がかなり高水準にあるのに、自宅を売りに出す人が少ないのです。
これには買い替えた場合、既に自分が借りている低利なローンを新しい家では高利なローンで借り直さなくてはいけないという問題が起きるからという面があります。リーマンショック後のオバマ政権下で政策により「高利のローンの低利のローンへの借り替えブーム」が起き、非常に多くの人が低利のローンに乗り換え済みなのです。
買い手にとっては価格が上昇しすぎたことも、売買が進まない大きな原因です。アメリカ経済全般が好調な中で、住宅市場がつまづきかけているわけです。
「価格」の面はどうでしょうか。売買件数の落ち込みの中で、8月28日発表(6月分)のケース・シラー住宅価格指数で見ると、価格は前年比でみると上昇していますが、前月比で見るとほぼ横ばいの状態が続いています。
ケース・シラー価格指数は既存住宅販売よりもさらに遅効性があることにも注意を要します。「8月28日発表の6月分」とは「4月、5月、6月」をならしたものであり、かつサンプルはその月に「クロージングされた物件」だからです。
売買件数の落ち込みが価格にどう影響を及ぼすかを見極めるにはもう少し時間が必要ですが、流れ的には「アメリカの住宅市場はスローダウンに向かう」という見方がますます強くなっています。
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清
三井不動産リアルティ㈱発行
REALTY-news Vol.40 9月 2018年 掲載