「ロバート・シラー博士」

 アメリカの代表的な住宅価格指数である「S&P/ケース・シラー住宅価格指数」をケース教授と共同開発したのがロバート・シラー教授(2013年にノーベル経済学賞を受賞)だ。世界で最も有名な不動産経済学者である。2000年前後のITバブルや2000年代中盤の住宅バブルについて、崩壊の警告を事前に出していた事でも有名だ。

 

 ケース・シラー住宅価格指数は中古住宅の価格指数で「リピートセールス法」という手法で計算される。アメリカでは売買契約書が登記書類として閲覧可能な事を利用し、「繰り返して(リピート)売買された物件」を抽出、二回の売買の価格差をその間の変動率とし、多数のサンプルを集めて指数化する。動きが実感に合致していて、非常に信頼度が高い。

 

 アメリカと日本では登記の制度が異なるわけだが、指数を作成する際、「経年減価(建物は中古になるほど安くなる)」が全く考慮されていないことに違和感を持たれる方も多いだろう。アメリカの市場では中古住宅が築何年かということは問題とされないのである。

 

 一方で、以前は「新築」も「中古」も値段は同じだと言われていたが、最近はアメリカ人も日本人と同様に「新築」にプレミアムを見出している例が見られるようになった。

例えば最近の流行りで、マンションの高層階で床から天井までをはめ殺しのガラス窓にして素晴らしい眺望の部屋にしてしまう例がかなりあるのだが、このような工夫は中古マンションにはまず存在しない。キッチンにしても中古物件ではありえない最新鋭な設備が新築物件には備わっている。他にもいくつかの要素が重なることによって、「新築プレミアム」と呼ぶべき物が一部で存在するようになったようだ。

 

 しかし仮に新築プレミアムがもう少し一般化したとしても、「住宅統計」にはあまり影響はない。アメリカでは全住宅流通の概ね85%は中古住宅が占めるからだ。

 

 さて、アメリカの住宅価格の推移を本題のケースシラ―指数の20都市分で見てみよう。起点となるのは2000年1月で「100」である。ピークとなったのは2006年4月の「206.7」で、その後34%も下落したところで大底を打った。この8月28日に発表された2018年6月分では「211.5」であり、名目価格ではもう住宅バブル時のピークを回復している状態だ。

 

                                       ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

週刊住宅 2018年9月3日号掲載